折り折りのくらし 89

 シネマミュージカル~脚本家・水木洋子ワールド

けい古に励む参加者たち

 いちかわ市民ミュージカルは2002(平成14)年に始まった、市民中心のミュージカル。三世代が交流しながら、文化芸術の創造の喜びを味わい、地域の絆きずなを深めることを目指している。
 
 2年に一度、市川市文化会館大ホールで行われており、5回目を迎える今回は、9月4日(土)、5日(日)に、「シネマ・ミュージカル~脚本家・水木洋子ワールド」と題した公演が4ステージ行われる。
 
 これは今年が、市川市八幡で創作活動を続けた脚本家の水木洋子さん(1910―2003)の生誕100年に当たるため、市川市真間在住の演出家・吉原廣さんが、1年以上の構想を経て書き下ろしたオリジナルミュージカルである。
 
 水木さんは、「また逢う日まで」「ひめゆりの塔」「純愛物語」「キクとイサム」など、日本映画の黄金時代に数々の名作を手がけた脚本家である。戦後の映画界は女をシャットアウトする男だけの世界。そこへ乗り込んでいった水木さんは、自立した女性としても、その人生には目を見張るものがある。
 
 吉原さんの脚本は、そんな水木さんの泣き笑いの人生を、市川市文学プラザでファイリングされた水木さんのエッセイや参考書などを読み込み、飽きない構成でミュージカルに仕立てている。
 
 迷子になったりお転てんば婆だった子供時代から、日本女子大、文化学院を経て、劇作家となり、戦争の渦に身を浸した姿も描きながら、戦後、今井正監督との名コンビで、映画の名作を生み出していくストーリー。
 
 後半には、水木さんの生み出した映画はいうに及ばず、テレビドラマ「竜馬がゆく」や、オペラ「ちゃんちき」などの登場人物までもが登場し、まさに水木ワールドが舞台上に再現される。
 
 仕上がった台本の表紙には、
 〈明治・大正・昭和…
 激動の時代を突っ走った
 水木洋子の映画と人生
 なにくそ!
 負けてたまるか!
 元気いっぱい
 女の一生!〉
 と記されている。
 
 上演に参加するのは、200人にのぼる市川市を中心とした市民の皆さん。幼稚園年長から、70代以上の人生の先輩まで、まさに三世代が一つの目標に向かって、休日返上で練習に励んでいる。大道具づくりや衣装の手配、基本的な音響や照明の操作などのスタッフも、市民が多数かかわっている。
 
 こうした市民ミュージカルの取り組みは、全国的にも例を見ないものであると同時に、今回は、水木さんの映画や名前さえも知らなかった参加者が、ミュージカルを通して、「水木ワールド」を体感する契機となっている。さらに興味をもった人は、映画を見たり、エッセイを読んだりと、こんなダイレクトな地域文化事業は特筆に値する。
 
 ところで、8月最初の練習を市川市グリーンスタジオでしていたときのこと。入り口に水木さんの等身大の写真パネルを置いていたのだが、練習を終えてそのパネルを見たある参加者が、「あっ、この人、練習のとき見かけたっ」と声を上げた。周りにいた人も目を丸くして
 
 「えっ、じゃあきっと水木さんが見に来てたんだようっ」。 霊界にも関心のあった水木さんのこと。お盆を前にして、さもありなんと思われた。お盆過ぎの8月25日が、満100歳の誕生日となる。
 
 水木さんもあの世から楽しみにしているであろう舞台を、一人でも多くの方に見ていただくことが、これからのラストスパート。ぜひぜひチケットをお求めいただき、足を運んでいただきたい。
 
 なお、吉原さんは明言していないが、今回の台本は、井上ひさしさんの戯曲「頭痛肩こり樋口一葉」や「太鼓たたいて笛ふいて」などにも通じるものを感じる。私は密かに、井上さんへ捧げる作品であるとも思っている。

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