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千葉商科大宮崎緑学長「地域がキャンパス」
実学と理論、高校との連携も
学生トークインで新たな「芽」

今後の大学像などについて語る宮崎緑学長(中央)
市川市との包括協定や学生の地域活動を通じ、市民とも関わりの深い千葉商科大学の学長に今年4月就任した宮崎緑氏が7月、報道各社と懇談した。政府税制調査会会長などを務めた経済学者の加藤寛氏が学長(第6代)当時の2000年、新たに開設された同大政策情報学部の助教授に就任後、国際教養学部の初代学部長などを務め、同大ですでに、20年以上のキャリアがある。宮崎学長は、商科大学特有の実学と理論の連携、今後の大学像などについて語った。
■どう育てるか
千葉商大は、2028年に創立100年を迎える。1928年にできた建学の精神が、「治道家」の育成。高い見地で時代の流れを受け止め、社会課題に向き合える倫理観のある指導者を育てるということだ。
今は、世界的なパラダイムシフトの真っただ中にあり、国際関係の力学が変化し、いろいろな事象が仮想空間に移行している。学生にどんな力をつければいいのかが、大学の使命になっている。
■学部の壁越える
伝統的な学問体系では、時代に追いつかない。これまでも、商経学部一本から学部を増設してきたが今年、学部の再編で4学部6学科体制にし、学部の壁を越えて学べるように大改革した。
なりたい自分になるため、必要な知識、教養を身につけようという時に、学部の壁があっては完結できない。学生に、どのようにチャンスを与えられるか、大学全体で考えた。
つくられた枠、決まった理論に学生を当てはめるのではなく、一人ひとりの未知の能力をいかに見つけ、引っ張り出せるかをベースに置いていきたい。
■地域との共生
恩師である3代前の加藤学長がよく、「学生は未来からの留学生。未来に帰った時に、役立つ力をつけてやらないといけない」と言っていた。しかも、その学びは教室で完結せず、「地球がキャンパス。地球全体で学んでいくのだ」と。
さらに言えば、「地域」はキャンパス。足元から行動するという時に、地域を知る。地域との共生は、大事なテーマと考えている。 学長になって、地方で卒業生と会う機会があるが、地域の中核人材になっている人たちが、結構いる。
■実学の進化系
答えのないことにチャレンジするのが、学問だ。ただ、学内には、(ワインやドレッシング開発、学生ベンチャー食堂など)80を超えるプロジェクトがあり、どう教育に結びついているか整理し、実学教育をもっと進化させる。
実学は、フィールドワークだけでなく、学問的基盤、理論構築がないと、高等教育にはならない。フィールドワークと学習を繰り返しながら、学生は育っていく。
例えば、経済原論は、社会実装した時にどう働くのか。先に理論を学んでから外に出て、そういうことだったのかと。何とか理論によれば、では終わらない。
フェアトレード認証(発展途上国の原料や製品が、公平な条件で取引されているか証明する制度)の取り組みにしても、開発経済論や国際政治学、戦略論など、政治学系のバックグラウンドがないとわからない。外交史、西洋史も必要になってくる。
大学で学んだことを社会で生かせるように、気をつけている。
付属高校も、巻き込む。高校生のうちから、これが面白いので、この学部のこのゼミに進みたいなどと、連携する。高校―大学で7年制のコース、あるいは飛び級があれば、修士課程まで7年で進むことができる。
■学長主催で…
今トライしているのは、学生から直接提案をもらう「学生トークイン」。
議論や討論、ブレーンストーミング(集団発想法)ではなく、参加自由で、何でも考えたことを気楽におしゃべりしましょうと、学長主催でやっている。
すると、ロッカーをサブスクリプション(定額料金サービス)で利用しよう、という新しい発想が出てくる。その金額で、学生の相場観もわかる。
環境問題でも、昼休みに食べたテイクアウトの器をどう処理するか―。今は分別ごみで捨てているが、リユースできないか、それならば食洗器がほしい、素材、衛生面はどうするか。
誰かが集めてくれればいい、という意見には、そういう発想がよくないとか。教員側は、いくらかお金が戻ってくるデポジット(預り金)制がいいのでは、など。
楽しいし、ここからいろいろな芽が出てくる。
そのうち、ベンチャーで食器の回転のやりかたを編み出し、特許を取って他の大学にも売っていく学生が出てきそう。
そういう芽は、大学全体で全力でバックアップして実現させてあげたいと、いつも思っている。
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宮崎緑(みやざき・みどり) 元NHK報道局ニュースキャスター。慶応大法学部政治学科卒。同大大学院政治学専攻。法学修士。国際政治、政策情報学が専門。
東工大非常勤講師を経て、2000年に千葉商科大政策情報学部助教授。同学部長、国際教養学部初代学部長などを経て今年4月、女性初の第9代学長(任期4年)に就任。政府の審議会メンバーなども多数、務めた。
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