市川よみうり連載企画

                 
検証・まち
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空気を運ぶバスの課題<1>

「なぜ『空気を運ぶ』コミュニティバスができてしまうのか」「市民が乗らないのはなぜか」
 この問いに対して、『路線バスの現在・未来PART2』(鈴木文彦著・グランプリ出版)は、「コースはそれなりに考えられているものが多いが」と前置きした上で、次のような問題点を挙げている。
@ニーズの高い場所を通らない/さまざまな需要の中でも、駅へのアクセスニーズは最も高い。潜在的に町の中心であり出発点として信頼性が高く分かりやすさにもつながる駅を通らない、または近くまで行かないために需要を逃している。
電柱に寄り添うように、控えめに設置されている市川市コミバス南部ルート「南行徳駅」停留所

A便数が少ない/都市部や市街地の場合、徒歩支援の機能が大きい。待っている間に歩けば着けるようなサービスでは、多くの利用は望めない。バス停で待ってもらえる時間は、大都市なら15〜20分、地方都市でも30分が限度であろう。1日4〜6本程度のサービスのところが意外に多いが、これは過疎地域で最低限のモビリティを確保するレベル。
B距離が長く所要時間が長い/特に循環路線で所要時間が長いのは致命的。1時間以上になると、大回り感が非常に強い。
C経由地を欲張ってルートが複雑/何回も枝道に入っては出て、コの字型に迂回を繰り返すルート設定を散見するが、コミュニティバスを利用するのは地元をよく知っている人が多いのだから、遠回り感が非常に強くなる。
D定時運行ができない/なぜかプロであるはずのバス事業者が設定したダイヤに無理があることがしばしば。
   

―◇―   ―◇―
     木枯らしの吹く、11月下旬。東西線南行徳駅から徒歩2〜3分ほどのところにある、市川市コミュニティバス「南行徳駅」停留所でバス待ちをしていると、
 「毎日、定時にコミバスを利用している。これから行徳駅まで行く」という地元中年男性が、
 「このバスは、本数少ないからさ、乗るときにはちゃんと時刻表を確かめてから来たほうがいいよ」
と、アドバイスしてくれた。
 バス停の「通過予定時刻表」をみると…。なるほど、便数は午前6時―午後7時まで1時間2本(午後零時と同4時台は1本)。
 「(目的地までの)乗車時間は長い。でもさ、運賃がワンコイン(100円)というのが、いいね。お得感があるよ」     (つづく)
<2007年11月30日>
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空気を運ぶバスの課題<2>

このごろ、市川市コミュニティバスの車内掲示がにぎやかになっている。以前からおなじみだった市動植物園のポスターや、バス利用状況を伝える交通計画課の「お知らせ」に加えて…。
 リサイクルプラザ・保健センター・少年センター・消防局などからのお知らせや、文化会館・ホールの催し紹介、保健医療福祉センター・浦安市川市民病院の求人など、公共広告が並んでいる。
 運転席近くの棚で、定番の「ルート・時刻表」「コミュニティバス通信」「アンケート調査の結果報告!」だけでなく、「いちかわ景観100選」(市民投票で選ばれた市内の景観資源をまとめた地図)や「イベント ガイド」(市文化振興財団の催し物案内)などを配布しているバスもあり、「走る『広報いちかわ』」といった感じだ。
「行徳駅」停留所の市川市コミバス。乗降客が多く車内はほぼ満席だった(11月末の午後零時台)

 11月下旬、午前10時台、市川市コミュニティバス南部ルートの「南行徳駅」から「メディアパーク行き」に乗り込んだ中年男性と、車内で話が弾んだ。
 「毎日、定時にこのバスを使っているよ。きょうは、これから『行徳駅』まで行く」
―「南行徳→行徳」間の乗車時間を比べると、地下鉄・東西線は約2分、コミバスは約12分で、約6倍の差がある。
 「確かに、時間がかかる。本数も少ない。だいたい、1時間に2本。でもさ、東西線の運賃は160円で、コミバスのほうは『ワンコイン』(100円)だから、片道で60円お得。往復だと120円、つまり缶コーヒー1本分お得といったカンジだね」
―「お得」だから、コミバスに乗る?
 「う〜ん、それもあるね。仕事が休みの日は、このバスでメディアパークまで行くこともあるよ」
―南行徳から東西線とJR線を乗り継いでメディアパークまで行くと、片道340円なので、往復すると…。
 「缶コーヒー4本分のお得ってことだな」
―北東部ルートに、乗り継いだこともある?
 「あるよ。こっち(南部)のコミバスの車体の色は、アズキ色だけど、あっち(北東部)には緑色と水色があるよね。乗車賃は、大人150円。しかし、南部から北東部ルートへの乗り継ぎ本数は、少ないよ。1日5本。だから、よーく時間表を見てから行かないと、ダメだよ」     (つづく)  
<2007年12月7日>

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空気を運ぶバスの課題<3>
市川市コミュニティバスの「追っかけ」を始めてから、約半年になる。最初は、起点から終点まで往復・延伸・循環ルートをひととおり体験乗車。市内観光バスに乗ったような気分で楽しかった。
 次に、「ルート・時刻表」を片手に、JR線や東西線・路線バスを乗り継ぎ、コミバスの停留所を一つひとつ訪ねてみた。車窓からは気づかなかったが、どっしりとした構えのバス停もあれば、簡略化されたバス停もあった。
 ときどき、バスの発車時刻に間に合わず、次の便まで30分〜1時間以上待ちぼうけとなることもあった。辺りに公共施設があると、何となくそこで時間をつぶすこともできたが…。
市川市コミバス南部ルート「妙典駅」。停留所環境は良く乗降客も多い=12月初旬・午後零時台

 雨の日、北東部ルートで、水たまりができた道端に立つバス停には泣かされた。避難場所を探したが、見当たらない。次のバス到着まで1時間以上。バスを待つより、歩きたくなった。沿道外の人が利用するには、なかなか難儀だ。
     
―◇―   ―◇―

     市川市福栄に住むSさん(50代女性)の「コミバス体験談」を紹介しよう。
 「自宅マンション近くの歩道に人が並んでいる。何だろう?」
 Sさんは、好奇心にかられて、近寄ってみた。列の先頭には、「柱(電柱)に隠れて見えにくかったけれど…」、コミバスの小さな停留所があった。マイカー族のSさんだが、それ以来、「機会があったら、一度乗ってみたいと思っていました」
 今年10月中旬、チャンス到来。行き先がメディアパーク周辺だったこともあって、仕事仲間と一緒に「コミバスデビュー」をした。
 「午前中の車内は、ほぼ満席でした。立っている人もいましたよ。行徳駅と妙典駅では、乗り降りがかなりありましたね。一緒に乗った私の仲間も、ふだん通らない道の景色を、車窓から楽しんでいました。南行徳周辺の人は、時間を確かめて、このバスを上手に利用すると、『足回り』として使えるのではないかと思います」
 Sさんと同じマンションに住む80代高齢者も
 「コミバスファン。『バス停も近いし、病院巡りに使っている』から、乗車賃用の100円玉をキープしていますよ」
 最初のは「よこっちょ向き」だったコミバス停も、いまでは、利用者が見えやすい角度に修正されている―とSさん。 (つづく)
<2007年12月14日>
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空気を運ぶバスの課題<4>
コミュニティバスを利用してもらうためには、どのようにPRすればよいか?
 『コミュニティバスの導入ノウハウ』(中村文彦監修・現代文化研究所発行)は、次のようにアドバイスしている。
 「計画段階および運行開始後のアピールの一例」として、
○市民参加での計画策定○チラシ・パンフレットや回覧板などによる情報提供○アンケート調査などの活用○目立つ車両を導入する
 その上で、
 「なんとかして一度実際に利用してもらうことが肝要。また、実際に利用していなくても、周りの誰かが乗車して口コミで評判が広がると有効なPRとなる。この口コミ評価は、行政や事業者からの情報以上に効果的な場合が多くあり」、見過ごせないポイント。
「社会実験運行」の文字と共にコミバス車体に付けられている市の「健康都市シンボルマーク」

 そこで、「とにかく一度乗ってもらう」ためには、
 「何かイベントを仕掛けたり、何らかのイベントと連携することも必要となる」
 その具体的な工夫例としては、
@無料乗車券の配布A学校教育との連携B地域の子供の作品展を車内で行う―など。
 ただし、「根本的にそのバスが利用者にとって利便性が高く、魅力的な交通機関であることが大前提。誰しも不便な乗り物にわざわざ乗りたいとは思わない。常に利用者の視点からバス自体の魅力を高めることが重要であることを念頭に、活動を進める必要がある」
   
―◇―   ―◇―
     市川市コミュニティバスに乗るたびに、車体に付いている「マーク」が気になっていた。そのマークは、大きな太陽・丘陵・川・五重塔・ビル群が描かれ、「HEALTHY CITY ICHIKAWA(ヘルシーシティ いちかわ)」の文字がある。市内の様子を、なかなか上手く表現している図柄だなあと思っていたが…。
 『市政ガイドブック』(平成18年発行)の巻頭ページでも紹介されている「市川市WHO健康都市シンボルマーク」だった。
 平成16年11月に「健康都市いちかわ」宣言をした市川市。今年10月には、「第3回健康都市連合国際大会」が開かれる予定。マークを付けて走るコミバスも、「地域のパワーで温かい連帯の輪が広がる、明るく活力のある『健康都市いちかわ』を目指す」(「同ガイドブック」巻頭の市長あいさつ)。市川の新交通機関として、活躍してほしい。 (この項おわり)
<2008年1月1日>
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バス車体に広告掲示<1>
市川市ホームページTOP(右下)にある「お役立ちリンク」の「コミュニティバス」をクリックすると、市コミバスのいろいろな情報がゲットできる。
 そこには、「社会実験運行とは」「平成19年度運行継続について」「時刻表」「運行事業の評価」(市民アンケート調査結果、評価委員会議事録や同委員会提言集などを収録)・「運行実績」(利用者数)・「運行に関するお知らせ」などが載っている。昨年8月からは、「協賛者募集」や「車体広告募集」の項も加わった。
 さて、年明けに何か新情報はあるか?
    あった!
1月10日デビューの広告付きコミバス。「市東山魁夷記念館」の写真と同画伯の作品『緑響く』が並ぶ」

 昨年末まで空白だった「協賛(寄付)を頂いた方の氏名」欄に、数件の名前が並んでいる。さらに、北東部ルートの「バスに広告が掲載されることとなりました」。
 協賛者の名前は、インターネット上だけでなく、バス車内にも掲示されているのだろうか? 北東部ルートでは、どんな車体広告を付けたバスが走っているのか? 1月10日、「保健医療福祉センター」停留所(柏井町4丁目)でコミバスの到着を待った。
 バス停には、「これから西船橋駅に行きたい」と、時刻ルート表を見ている2人連れ。同駅までの直通バスに乗るには、「市営霊園」まで歩かなくてはならない。
 「路線バスに乗って本八幡駅に出る方法もあるけど、乗車時間が長そうだねー…」
 『コミバスで市川大野駅に出るほうが近い。料金も路線バスより安いよ』
 すると、まさに、タイムリーに
「循環ルート左回り」のコミバスが到着。これに乗れば、市川大野駅まで約6分だ。2人は、同バスに素早く乗り込んでいった。
 発車前の車体をぐるりと見回す。残念ながら、お目当てのものがない。運転士に聞くと、きょう十日から、北東部を走る3台のコミバスのうち、1台にラッピング広告が施されている―とのこと。
 「次に来るバス(『動植物園』行き)には、車体広告が付いてますよ。もう少し、待っててくださいね」
 ほどなく、車体の両側面と後部に、東山魁夷画伯の作品『緑響く』をラッピングしたコミバスが到着。緑深い湖畔に白馬をあしらった絵柄で、スポンサーは市内の新聞販売会社だった。           (つづく)
<2008年1月18日>
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バス車体に広告掲示<2>
約10年前、東京都営バスは21億円以上の赤字を抱えていた。まさに火の車≠フバス経営に知事が、
 「空気を運ぶなら、動く広告塔として利用して収入を得たらどうか」
 と提言。当時大きな話題となった。ほどなく都条例が改正され、以前の10倍以上の面積の車体広告が可能になった。
 いま、地域・事業者によって規定は異なるが、路線バスの車体広告の大きさは、側面窓下のホイールベース間を利用したものから車全体を覆うものまでさまざま。直接塗装もあるが、近年はコンピューターでデザインした接着フィルムを張り付ける「ラッピング」が主流となっている。
北東部ルートコミバス乗車口脇に掲示された車体広告=東山魁夷作『緑響く』(部分)

 コミュニティバスでも、赤字経営の路線は多く、その補てん策として車体広告募集に乗り出す自治体も出ている。
 市川市の場合は、昨年八月からコミバスの車体広告募集が始まった。広告サイズは、10センチ四方からフル(全面)ラッピングまで大小様々な大きさが可能。掲載料は1日1平方メートルあたり660円で、他に諸経費(広告シート代・作業費他)がかかる。
 市に問い合わせると、募集から約半年で2件の広告スポンサーが決まり、今年1月から北東部ルートでラッピングバスが走り始めているという。
 ―車体に広告が付いたのに、気がつきましたか?
 1月10日、初お目見えの広告付コミバス(「動植物園」―「現代産業科学館・メディアパーク」間往復)利用者に聞いてみた。
 すると、
 「えっ、そうだったの?」
 「気が付かなかった」
 乗車口脇の広告は、横約80センチ×縦約50センチと、やや小ぶり。乗車の際に、ぜひご覧あれ。
 一方、反対側面の窓下ホイールベース間の広告は、横約2.5メートル×縦約1メートルと大きめで、これから沿道の人目を引くかもしれない。
 同日(平日午後)、同ルートの利用状況はなかなかのもので、ルート半ばあたりから満席となった。後部座席からは、ご婦人仲間同士の楽しいおしゃべりや笑い声が聞こえる。
 「動植物園」から約1時間かけて到着した「現代産業科学館・メディアパーク」停留所では、次の折り返し発車を待つ人の行列ができていた。
<2008年1月25日>
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バス車体に広告掲示<3>
市川市内でJR線以北を走る路線バスの、車体広告を観察してみた。街という舞台を背景に、バス車体からいろいろな情報が発信されていた。
 広告スタイルは、車の左右側面(サイドボディ)・後面(リアボディ)に設けられた大小のワクに看板を差し込む、「広告看板枠差し込み方式」が多い。
 前面(フロント)窓下部分を利用した「バスマスク(エプロン)広告」には、布幕がヒモで結わえられてものもあり、まさにバスが「マスク」や「エプロン」をしているような格好になる。
JR本八幡駅行き路線バスの車体側面の黄色い広告はスポンサー名が鮮やかに読み取れる

 いずれも、遠目では何が書いてあるのか分かりにくい。
 そんな中で、数は少ないが、両サイドやリアボディいっぱいに色鮮やかなデザインをほどこしたカラーバス(ラッピングバス)は、ひときわ目を引く。
 「看板差し込み枠」が空っぽのバスと、満艦飾のカラーバスがすれ違うとき、いまどきの車体広告の「流行(はやり)」を見たような感じがした。
 昨年8月から募集が行われている、市川市コミュニティバスの車体広告掲載取扱要綱等をみると、その広告スタイルは「広告が印刷されたシートをバスに貼り(は)付ける方法により行うものとする」。
 サイズは、「10センチ四方からフルラッピングまで大小様々な大きさが可能。自由な発想でご活用ください」
 「シート貼り付け」「大小さまざま自由発想」の広告は、これからコミバスの車体をどのように彩っていくのだろうか。路線バスとはまた、一味違った車体広告に対する「市のセンス」「スポンサーのセンス」が問われそうだ。
 すでに1月中旬から、北東部ルート(動植物園〜現代産業科学館・メディアパーク間往復便)で、「東山魁夷の額絵紹介」広告掲載のコミバスが運行している。同広告の色調は、バスの元々の色や市北東部の自然に解け込んでいる。
 つまり、「インパクト」より「調和」重視の広告という印象を受けた。
 この先、新しいスポンサーが名乗りを上げ、広告効果を狙うとすれば、どんな具合に「調和」と「効果」の折り合いをつけるのだろうか…。他自治体のコミバス車体広告例を調べると、広告中に「○○(広告主)はコミュニティバスを応援しています」というコメントを課している自治体もあった。
<2008年2月1日>
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34
サービス向上への道<1>
「コミュニティバスの時刻表は、どこでもらえるの?」
 リハビリパーク=市川市保健医療福祉センター(柏井町4丁目)玄関の「車待合」で、八十代の女性から声をかけられた。
 外は木枯らし。そこには、帰りのバス・タクシーや家族の迎えを待つ人たちがいる。 
 「このパンフレットは、もういただいたんだけど…」
 女性は、「受付の血圧計横に置いてあった」という色刷りのルート図付き時刻表を見せてくれた。
リハビリパーク「車待合」の掲示板は大文字時刻表で、高齢社会が進むなかお年寄りに喜ばれそうだ

 「…字が小さくて読みにくいの。あそこ(掲示板)に張ってある、字が大きいのがほしいのよ」
 車待合の掲示板に近寄り、よく見ると…。「コミュニティバス通信」やルート図の横に、確かに「字が大きい」時刻表が張ってある。
―これですか?
 「そうそう、どこでもらえるの?」
 受付に問い合わせてみた。「字が大きいの」は掲示用で、配布はされていなかった。
 「ザンネン!」
―これから、コミバスに乗ってお帰りですか?
 「いいえ、娘に迎えに来てもらうことになっているの。でも、娘も忙しい身だから、いつもいつも迎えを頼んだらかわいそうだしね…。次回検診に来たときは、コミバスに乗って、ひとりで帰ってみようかと思っているのよ」
―では、『お迎え』を待つ間に、お手持ちのパンフレットを使って、一緒にご希望のルート・時刻を調べてみましょうか。
 「あら、助かるわぁ」
 二人は、パンフレットをのぞき込む。
―ここを通るコミバスには、「循環ルート右回り・左回り」と、「動植物園―現代産業科学館往復ルート」がありますね。ところで、どちらにお住まいですか?
 「JR市川大野駅の近くだけど、『アナタの家は、コミバスの○○という停留所がいちばん近い』と教えてくれた人がいたわ」
―それなら、まず、循環ルート「左回り」をチェック。えーっと…、ここから○○停留所までの乗車時間は…、5〜6分くらいですョ。
 「えっ、そんなに近いの? その『左回り』のバスは、何時に出てるの?」
―えーっと…、左回りは…午前8時台から午後7時台まで…9便出ていますね。だいたい1時間に1便。午前11時台と午後3、6時台の便はありません。 (つづく)
<2008年2月8日>
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サービス向上への道<2>
市川市のコミュニティバス(北東部・南部)に乗るようになって、約1年になる。時刻表やルート図の見方も何とか分かるようになったが、それを初めて利用する人に説明しようとすると、なかなか上手くいかない。
 ときどき、車内で「アッ、乗り間違えた!」という人を見かけるだけに、丁寧に説明しようと心がけているが…。
 いちばん簡単なアドバイスは、
 「乗るとき、運転士さんに行き先を言って、『止まりますか?』と聞くといいですよ」
北東部循環ルートのコミバス。今年1月から乗車口付近に沿道の温泉施設の広告を付けて走っている

 「乗り間違えた」人たちの多くは、まず何も聞かずに乗車する。次に車窓の景色が何か変だとソワソワし、バスルート図を心配そうに眺め、最後にやっと思い余って運転士席に近づいていく。
 間違えると、長時間ドライブになってしまうこともあるし、最悪の場合は他の交通機関に乗り換えなければならない可能性もある。
 だから、慣れないうちは、「最初に聞く」。このひと手間が、快適なコミュニティバスライフを約束してくれるだろう。
 「どのバスに乗ったらいいの?」
 リハビリパーク(柏井町4丁目)の「車待合」で、80代女性に尋ねられた。彼女の目指すバス停は、市コミバス「北東部循環ルート」上にあった。
 同ルートは、市北東部40数か所のバス停を円状につなぎ、そこを1周約1時間で「右回り」「左回り」している。ぐるっと回ってまた元の位置に戻る、ちょうど都内を走るJR山手線の「外回り」「内回り」のような感じだ。
 「右と左の、どちらに乗ったらいいの?」
 ルート図で、@現在位置A目的地を確かめ、@からAに向かって最短距離の矢印をつけてみる。矢印の方向が右なら「右回り」、左なら「左回り」がお薦めだ。
 「パンフレットの文字が小さくて、読みにくいのよ」
 確かに、高齢者には、一般配布されているパンフレットは読みにくそうだ。拡大コピーして、利用するルートや時刻に赤マルをつけておくといい。そうやって、あらかじめ予習しておけば、迷わないだろう。
 「ありがとう! こんどはひとりで乗ってみるわ」
 どういたしまして。これから、コミバスを上手に使って、ひとり歩きの行動半径をひろげてください。
<2008年2月15日>
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サービス向上への道<3>
コミュニティバス運行赤字補てんのため、市川市は昨年8月から車体広告・協賛(寄付)募集を行っている。
 車体広告のほうは、今年1月から、北東部循環ルートと「動植物園〜現代産業科学館・メディアパーク」往復ルートで、沿道の温泉施設や市内の新聞販売会社の広告付きコミバスを見かけるようになった。
 協賛制度のほうも年明けから、市ホームページやバス車内の「協賛者一覧表」に名称(個人・法人名など)が並び始めている。「ひと口千円から」という同協賛制度の「申し込み・問い合わせ先」である、市道路交通部交通計画課を訪ねてみた。
市コミバス車内に掲示されている「協賛者一覧表」には10口以上の協賛者の名称が記されている

 協賛申し込みの手順は、
@窓口で渡される「市川市コミュニティバス運行事業協賛申込書」に必要事項を記入。申込書には、協賛者名称掲載希望の「有」「無」を問う項目がある。「有」を選択すると市ホームページやバス車内の「協賛者一覧表」(10口以上)に名称が掲載される。
A協賛金を納付
B「領収証書」を受け取る。同証書は、寄付金控除を受ける際に必要となる。
―これまでに何件くらいの協賛申し込みがあった?
 「昨年末あたりから動きが出てきた。名称の掲載を希望しないケースも含めると、5件以上」
―現場の反応は?
 「さきごろ、うれしいような、ちょっと困ったような…、予想外のできごとがあった」
 それは、コミバス南部ルート車内で起きた。透明カバーがかけられていない「協賛者一覧表」に、乗客が自分の名前をハッキリと書き込んでいった。
 同一覧表には『私たちは市川市のコミュニティバスを応援します』という文言が刷り込まれているだけに、
 「たぶん『応援しているよ』という気持ちをこめて、名前を書いてくれたのだと思う」
 表はすぐに取り換えられたが、
 「その気持ちは、うれしかった」と、同課職員。
 この制度の受け付けは、同課のほかに、
 「行徳支所総務課、大柏出張所でも行っている」
―協賛金は、どのように使われるのか?
 「コミバスで得た収入、『運賃収入』と同様に考え、市の運行経費赤字補てんに充てられる」
<2008年2月22日>
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37
運転席に映る光景<1>
運転士の視線で、社会実験運行3年目のコミニュティバス路線をたどってみよう。
 市川市コミバス北東部ルートの運行(維持・管理)主体である京成バス市川営業所(柏井町4丁目)を訪ねて、9人が所属する同ルート運転士のひとり、橋秀樹さん(41)に話を聞いた。
―コミュニティバスの運転席に座って、どのくらい?
市川市コミバス運転士(北東部ルート)の制服・エンジ色の帽子と同色ブレザーを着た橋さん

 「1年になります」
―1年間で何か変化はあった?
 「その間、お客様は確かに増えていますよ。先輩からも最初のころの話は聞いていますが、ここにきてやっと認知度が浸透してきたというのは事実だと思う」
―具体的に、増えた≠ニ実感できるのは、どんなとき?
 「ここ半年くらい、バス車内(降車口近く)に置いてあるリーフレット(市が発行しているコミバス路線図・時刻表パンフレット)の減りかたが早い。継ぎ足し補給しながら、認知度アップのしるしとみている」
―利用者の流れからは?
 「コミバスは、1年中、同じ運行ダイヤで走っています。循環ルート朝の通勤タイムには、20〜30人乗って来られますよ。サラリーマンに加えて、このごろは沿道の病院の職員さん、ヘルパーさんたちにもうまく利用してもらっています」
―昼間は?
 「買い物や病院の通院に利用されるお年寄り。乳幼児を連れた主婦層も増えています」
―夜は、
 「最終は午後7時台で、勤め帰りの人たちです」
―動植物園とメディアパーク往復便のほうは?
 「平日は弱いが、土日、祝日の家族連れが多い」
―皆さん、乗ってみて、「便利だ」と分かると、繰り返し乗るようになる?
 「はい。そうなると、もう根強いですね」
―根強いお客様がじわじわ増えてくると、うれしい?
 「私たちはお客様を乗せて走るのが仕事なので、たくさん乗ってくれたほうがいいですよ」
―コミバスの運転手になって、よかった?
 「地域密着型なので、ちょっとしたことでもお客様の反応が直に返ってくる。『ありがとう』という言葉をいただくこともある。うれしいです」      (つづく)
<2008年2月29日>       
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38
運転席に映る光景<2>
さきごろ、市川市道路交通部交通計画課で、市コミュニティバスの「運行実績」グラフ(平成17年10月―同20年1月)を見せてもらった。利用者数は、夏場に増え、冬場がやや落ち込みながら、全体的にはゆるやかな右肩上がりを示している。南部・北東部ルートを合わせた累計利用者数は、今年1月に80万人を突破。
 北東部ルートに焦点をあててみると、昨年7月―10月は、ひと月の利用者数が1万人を超え、1便あたりの平均乗車人数が約12人と、スタート以来最高の記録となっている。
車イス利用者を迎えるときは座席を畳んで乗車口にスロープを組み立てるスペースを設ける

 「ここ半年、お客様が確かに増えている」という同ルート運転士・橋秀樹さんのことばは、このグラフからもうなずける。
 沿道の人たちが、コミバスに慣れ、上手に使いこなせるようになってきたのだろうか。
 「そうですね。運転士から見ても、うまく使っているとなぁと感心することがありますよ」と、橋さん。
―たとえば?
 「コミバスの停留所のひと区間は、路線バスより短い。通常だったら、歩いて行ける距離です。そのひと区間、ふた区間を『お買い物バス』として利用してくれるお年寄りの常連さんがいます。スーパーまで送り届けた人を、逆周りコースでまた乗せて帰るということもありますよ。そんなとき、『あっ、また同じ運転士さんね。いつもありがとうね』と声をかけられます。コミバスを足がわりに外出していらっしゃるんだなあと実感します」
―そんなふうに顔見知りになったお客様とのコミュニケーションは?  「運転中しゃべるということはなかなかできないが、あいさつくらいはできますよ。『今日は天気がいいですね』とか、『暖かいですね』とか。いつも乗ってくださるお年寄りの姿がみえないと、気になりますね。ほかの運転士が乗せているのかな、時間帯がずれて会えないのかなあ、と。しばらくたって、停留所に立っている姿を見つけると、『アッ!』というカンジで…、こちらから『お久しぶりですね』とはなかなか言えませんが(笑い)。降車のとき必ずアメをくれるおじいちゃんや、ミカンをくれるおばあちゃんもいます」
―受け取る?
 「本当はいけないと思うんですが…、好意として、ありがたくいただいてます」   (つづく)        
<2008年3月7日>
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39
運転席に映る光景<3>
市川市コミュニティバス北東部循環ルートには、「右回り」と「左回り」がある。この「右」「左」の乗り分けが上手にできるようになれば、まずはコミバス通(つう)と言えるが…。
 ひとつの停留所に「右」「左」がわずかな時間差で入ってくるケースでは、たまたま交通混雑で「右」「左」の到着順が逆になったときなど、乗り間違えてしまうこともあるだろう。
   「ちゃんと伝えないといけないなと思う」と、同ルート運転士・橋秀樹さん。
 「伝えたつもりでも、お客さんにその意味が分かってもらえなくて、逆方向に連れていってしまった。迷惑をかけてしまった」コミバス運転士デビュー当時の苦い経験もある。
 だから、
 「運転士は、『船橋法典駅のほうへ行きます』『市川大野駅のほうへ行きます』『よろしいですか?』など、マイクアナウンスが欠かせません。乗っていただいたあとで、『あれっ?』と言われたときにはもう遅いですから」
 そういえば、先日、北東部コミバスに乗車したとき、「大野中央病院内」で数分の時間調整があった。そこも、ひとつの停留所に「右」「左」が乗り入れるタイプ。バス停の客数人が、運転席をのぞきこみ、何か盛んに質問していた。運転士はバスから降りて、時刻表・路線図パンフレットを渡し、身振り手振りをまじえて行き先を説明していた。
 「『(コミバスが)走っている』のは見て分かっていても、まだ『どこへ行くのか』『どういうルートをたどるのか』知らないかたもいらっしゃると思いますよ」
 なじみの、そして新しいお客様へのサービスは、
 「『まごころ』に尽きますね。ものであらわせるものではく、『心と心のつながり』みたいなものだと思います。乗り間違えやすいところではマイクアナウンス。すると、お客さんのほうも、必ず聞いてくる。双方のコミュニケーションですよね。それで、間違えも解消される」
 これからのさらなるサービス向上のためにも、
 「いろんな意見をもらえるのが一番うれしい。よかったこと、悪かったこと、すべてをあげてもらったほうが、自分では気づかない面もあるし、勉強にもなる。それがないと、自分ではいいと思ってやっていることでも、お客様がどういうふうに思われているか分からないですからね」
 「昔は、路線バスも地域密着だったんですよ」と、京成バス市川営業所次長・飯塚辰雄さん。
 運転士と乗客の信頼関係で築きあげていく地域密着スタイルが、コミュニティバスでまた復活した?
 「はい、地域密着が、(バスの)原点です」 
 なるほど。忘れかけていた、懐かしい「乗り合いバス」ということばを思い出した。
<2008年3月14日>
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<新交通機関>
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運転席に映る光景<4>
市川市は3月1日から、公式webサイトをリニューアルしている。
 以前、「コミュニティバス」関連情報をチェックするときは、同サイトトップページ右下の「お役立ちリンク」からたどるのが一番、近道―とお伝えしたが、リニューアル後は同ページ右上の「検索」コーナーが便利。
 そこには、検索したい事柄を自分で打ち込むワクと、「検索トップ10」が設けられている。「コミュニティバス」は、ちょうどいま(三月中旬現在)、「トップ10」にランクインされている。
 検索結果は、300件近く。社会実験運行立ち上げから現在に至るまでの膨大な資料が並んでいる。ルート地図や時刻表もそこから引き出せる。
  ひとしきり資料を閲覧したら、実際にコミュニティバスに乗って同バス特有の雰囲気を体感してみよう。何度か乗るうちに、同バスルートが、市内のいわゆる「交通不便地」を巧みにつなぎ合わせていることが分かってくる。
 日ごろスピーディな生活を送っている人にとっては、目的地までの所要時間の長さ、う回の多さ、便数の少なさや他交通機関とのアクセス不足が、イライラのタネになるだろう。
 どちらかというと、スローライフ志向の人たちにお似合いの乗り物だ。
 学童の校外学習(たとえば「バスの乗り方教室」「街探検」など)にも利用してみてはいかがだろうか。好奇心旺盛な柔らか頭の子供たちが、いままで大人の気づかなかったコミバスの、もっとおもしろい乗り方を教えてくれるかもしれない。
 連載を締めくくる、市道路交通部交通計画課からのメッセージは次のとおり。
 「市川市のコミュニティバスは、この3月で社会実験を開始してから2年半になります。運行を開始した平成17年度の利用者は、半年間で10万人ほど。当時は、『空バスが走っている』などの厳しいご意見もいただきました」
 しかし、
 「本年度の利用者は43万人を超えており、平成20年度には累計100万人に達する予定です」
 これまでに実施したアンケート調査で、
 「地域の皆さんと市と運行事業者との協働による運営が望ましいとの意見が多くありましたので、現在、市では地域の方々との協働で運営することのできる運行制度を検討しています」
 コミュニティバス運行は、
 「目的が交通不便地を解消することですので、なかなか採算を取ることができず、市が赤字を補てんしているのが現状です」
 今後運行を継続していくためにも、
 「皆様に、協賛金や広告制度でご支援いただくとともに、さらなるご利用をお願いします」            (終)
<2008年3月22日>
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center@ichiyomi.co.jp 市川よみうり