市川よみうり連載企画

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検証・まち
<介護はいま>
1
10年後は超高齢社会

平成12年に介護保険制度がスタートして5年が経過した。市川市の「介護保険給付実績等に関する資料」を見ると、市内の高齢者人口は約6万人(内訳・65―74歳の「前期高齢者」=約3万7千人、75歳以上の後期高齢者=約2万3千人)で、高齢化率は約13%(同16年4月1日現在)。
 同16年3月末の介護保険実認定者数は、要支援=819人(実認定者構成比10.3%)、要介護1=2508人(31.6%)、要介護2=1384人(17.4%)、要介護3=1128人(14.2%)、要介護4=1053人(13.3%)、要介護5=1046人(13.2%)で、比較的「軽度」と呼ばれている「要支援」「要介護1」合計が、全体の約4割を占めている。
 市内の高齢化は、これから緩やかに進行し、平成19年には14.9%となる見込み。

 厚生労働省はさきごろ社会保障審議会介護給付費分科会を開き、
平成18年度から実施される介護報酬の見直しに向けた論議をスタートさせた。国は、今回の制度改革のひとつに、「要支援」「要介護1」など軽度の要介護者向けの予防を重視したサービス新設を予定している。「介護保険法等の一部を改正する法律案要綱」には、「介護予防サービス」という文字が随所に見られる。
 「介護予防サービス」とは何か?
 同省介護保険課発行の「介護保険かわらばん」(平成17年1、2月合併号)には、次のような解説がある。
 「要介護度の軽い方について、介護が必要となった状況を見ると、下肢機能の低下や閉じこもりなどにより生活機能がじわりじわり低下していく、いわゆる廃用症候群(生活不活発病)の方が大きな割合を占めています。このような方々は、早期に適切な介護予防サービスを行うことで改善は可能」
 だから、
 「要介護認定の結果、改善の可能性が高いと認められた方々に向けて、予防給付のサービス内容を再構築することとしました」
 サービス内容の一例は、
○予防型のホームヘルプ(単に生活能力を低下させるような「家事代行」は見直し)
○予防型デイサービス・通所リハビリテーション(筋力向上プログラムなども組み込む)
○予防型居宅療養管理指導(栄養改善、口腔ケアなども組み込む)
 さらに、介護認定で「自立」と判定された人や保健訪問指導などで「要注意」とされた人を対象に、介護保険制度内の事業(地域支援事業)として介護予防事業を実施。
 「団塊の世代」が高齢者の仲間入りをする十年後の超高齢社会を見据え、こうした「予防重視型システム」を、
 「『転ばぬ先の杖』として今のうちから、しっかり介護保険に組み込んでいく必要があると考えます」
<2005年4月8日>

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検証・まち  
<介護はいま>
求められる「自立」

平成18年度から「介護保険」に「介護予防サービス」が導入されると、介護現場はどう変わる?
市川市保険福祉局福祉部介護保険課に聞いた。
―過去5年間の市内の同保険利用状況から分かることは?
 「前期高齢者(65―74歳)については、お元気な人が多く、利用は少ない。ところが、75歳を越すと、いろいろ障害があらわれ、要介護認定申請をする人が多くなってくる」
―軽度の障害の訴えには、どんなものが多いのか?
 「後期高齢者(75歳以上)になると、筋力が落ちて骨を支えられなくなり、『ヒザ・腰が痛い』『正座ができなくなった』『重いものを持って長距離を歩けなくなった』『布団が運べなくなった』など日常生活の辛さを訴える人が多い」
―そうした軽度認定者(「要支援」「要介護1」)が、予防的な活動をすることで、障害の維持・改善は可能か?
 「現在、全国で予防的なモデル事業が行われており、そこからあがってくる報告をもとに、一律ではない、個々人に合わせた効果的な予防メニューをプランニングしていきたい」
―予防プラン作成は、市町村の責任だが、拠点となる『地域包括支援センター』の形態は?
 「考慮中。社会福祉士・保健師・主任(スーパー)ケアマネージャーがスタッフとなる」
―「今は元気」「支えが必要」「介護が必要」と、移ろいゆくお年寄りの状態。できるだけ「介護が必要」とならないように、高齢者は今まで以上に「自立」が求められる?  「介護保険の本来の目的は『自立支援』。今回の改正は、それをきちんと認識するための、5年目の検証でもある」
―市内の高齢者の介護予防への関心は?
 「高いとみている。たとえば、平成8年度からスタートした『いきいき健康教室』(60歳以上の市民対象)は、希望者が多く、待機者も出るほどの『ヒット商品』となっている」
  現在、市が行っている「介護予防地域支え合い事業」の平成16年度実績・内容は、次のとおり(市高齢者支援課)。
○「いきいき健康教室」(39会場、開催1170回、延べ参加人数4万4千人)内容=体操(いきいきクラブ体操・転倒防止体操など)・ダンス・ゲーム・歌など。
○「高齢者ミニデイセントー」(9会場・198回・2800人)内容=講師による健康観察、健康体操、入浴サービス、歌・レクリエーションゲームなど。
○「エンジョイはつらつシニア教室」(4会場・120回、3100人)内容=体力測定、転倒防止を主眼とした筋力アップトレーニング(主にエアロビクス)など。
 いずれも看護師・保健師の健康相談・指導(月1回程度)付き。介護予防の裾野(すその)は広がるか…。
<2005年4月15日>

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検証・まち  
<介護はいま>
3
新しい局面の介護<1>
さんさんと日の差し込む市川・大洲デイサービスセンター・メーンフロアの、のどかな昼下がり。
その一画で、
―○○さん、「ばばぬき」をしませんか?
「『ばばぬき』なんて、いやーよ」
―じゃあ、「ジョーカーぬき」なら?
「そうね、でも、わたし、やりかた、わからないわ」
―トランプのゲームですよ。みんなで一緒にやりましょう。
「それなら…、やってみようかしら」
介護職員に誘われて、よいしょと壁際のイスから立ち上がり、通所仲間と一緒にトランプゲームを始める80代女性。
こちらでは、
―きょうは理学療法士の先生が来ているから、体でキツイところがあったら相談してくださいね。
 「相談するのはいいけど、お金を取られるの?」
―いい質問ですね。そんなこと、ありませんよ。
 「じゃあ、お願いしようかな。
長い間かけて痛めた体が、そんなにカンタンに良くなるわけないけどねぇ」
通所者の遠慮のないおしゃべりに、職員もつい笑い出す。
立ち上がるときなどに必要な筋力をアップさせるホリゾンタルレッグプレス
 平成16年10月にオープンした「大洲デイサービスセンター」(社会福祉法人慶美会・粕谷ちいセンター長)は、大洲防災公園内の建物の3階にある。現在、登録通所者は約80人。日曜日を除く午前9時半から午後4時半ころまで、15〜20人のお年寄りが入浴・食事・リハビリを兼ねたゲームなどをして過ごす。隣接の防災公園を利用した「郊外遊歩」を積極的に取り入れ、地域との交流・ふれ合いもメニューに織り込んでいる。新しい試みとして、今年1月からメーンフロアの隅に、筋力向上トレーニングマシンも2台設置。
「コンパスローイング」は上半身、「ホリゾンタルレッグプレス」は下半身用。適切な指導・プログラムのもとで利用すると、前者は「戸を開ける」「ツエをつく」「シルバーカーを押す」など、後者は「歩く」「イス・床から立ち上がる」など日常動作に使う筋力のアップ効果が期待できる。
高齢者仕様(10〜15キログラムの負荷)で各10回、試してみた。50代女、運動不足気味の記者の場合はマシンも軽々と動いた。       (つづく)
<2005年4月15日>
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<介護はいま>
4
新しい局面の介護<2>
「介護保険制度の見直しに当たっては、10年後、20年後といった将来を見据えた取り組みが重要となる。介護保険制度を支える基盤である『地域のサービス体制』は、短期間のうちに整備できる性格のものではない。高齢者のニーズに真に対応したサービス体制の整備には、地域の拠点づくりから始まり、それを支える人材の養成・確保・ネットワークの整備等が必要となるし、事業者にとっては安定的なビジネスモデルづくりも欠かせない。そして、何よりも利用者の側に制度が浸透し、十分に活用されるまでには時間を要する。したがって、10年後の時代の要請に即したサービス体制を構築しようとするなら、今の時点から関係者挙げて取り組まなければならない」(『介護保険制度の見直しに向けて』社会保障審議会介護保険部会報告資料)
   
―◇―   ―◇―
    市川市大洲一丁目、「大洲デイサービスセンター」(社会福祉法人・慶美会)の生活相談員・見原克哉さんに10年、20年後のデイサービスを想像してもらった。
―介護保険スタート時は、デイの数が少なく、待機者も出たが、
 「いま、都内では、デイを使いたいと思って探せばどこか空いている状態。将来的には、どこでも利用者のほうが気に入ったデイを選べるようになると思う」
―「利用者から選ばれるデイ」になるためには?
「利用者の望むものをリサーチし、そろえ、個々の希望に添ったサービスを提供する」
―これからの超高齢社会の主役となる、戦後のベビーブーム世代をどのようにみている?
「今までは『国からサービスを受けさせてもらっている』『とりあえずありがたい』という感じの人が多かったが、ベビーブーマーはサービスに望むものが高いと思う」
―保険料も段階的にアップして、
「それだけのお金を払っているのだから、それなりにやりたいことをやらせてくれるだろう、と」
―国は、今回の見直しの目玉に「介護予防」を唱えているが、今年1月から同施設のフロアに設置した2台の筋力トレーニングマシンの利用状況は?
 「現在までに、10人の申し込みがあった」
―効果は?
 「まだ試験的段階なので、無理をしない程度にやっていただいている。一年くらい経過をみないとまだ何とも言えないが、70代前半の男性からは、『歩く速度が速くなった』『階段の昇り降りができるようになった』などの報告があがっている」
―介護予防的筋トレはこれから流行(はや)りそうか?
「誰もがすぐに飛びつくということはないだろう。多様なサービスの選択肢のひとつ」
 大洲デイで筋トレマシンを体験させてもらった。翌日、ふくらはぎが若干緊張し、背筋がやや伸びたような、感じがした。
<2005年5月6日>
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検証・まち  
<介護はいま>
5
保険の有効活用は・・
 親類の入院見舞いで訪れた、とある総合病院。そこで「介護の、いま」を垣間見ることができた。

「失礼します」と、病室に入ってきたのは、ふたりの看護師。『患者様』に床ズレができないように、「体位変換」をするという。
 「ちょっとお体を動かしますよ―」と優しい声かけをする女性看護師。体格の良い男性看護師が力仕事を助ける。絶妙のチームワーク。
談話室では、患者・家族・ケアマネジャーが、オープンなムードで話をしている。
 「おばあちゃんが退院しても、家族はそれぞれ忙しく、ゆっくり話し相手をしてあげられない」とケアマネジャーに相談する中年女性。
 「介護保険でお話し相手≠セけというのは、できないんですよ。ボランティアさんを探してみましょうか。デイサービスに通っていただくという方法もあります。これからは、介護情報をいっぱい持っておくといいですよ」
 その隣では、退院間近の男性患者が、パジャマ姿で要介護認定のチェックを受けている。
 「洋服は、ひとりで脱き着できますか?」
 「う〜ん、できることは、できるけど…、時間がかかるなあ…」
あやふやな答え。家族が横から口をはさむ。
 「父さん、ひとりではムリだよ」
 「そうよ、ムリよ。やっぱり、ヘルパーさんにお願いしたほうがいいんじゃないの?」
 担当のケアマネさんは、苦笑い。チェック項目がなかなか先に進まない。
 窓際のソファでは、七十代男性が、四十代男性にいろいろアドバイスしている。
 「おかあさんのバイタルのほうは、安定してきましたか?」
 「ハイ、お蔭様で、何とか熱は下がりました…」
 「熱発(ねっぱつ)したときは、抗生剤や解熱剤に頼るだけでなく、大きな動脈の通っている部分を冷やすといいですよ。薬漬けにされないよう、こちらのほうからも医師にどんどん言っていかなければ、ね」
 二人の話に割り込ませてもらった。
 ―介護に詳しいですね。
 「はい、介護保険をフルに使い、男手ひとつで両親を看送りましたから」と、七十代男性。
 ―どんなサービスを使いました?
 「家事援助、デイサービス、訪問看護など。母親は最初、家事援助を嫌い、ヘルパーさんを話し相手にしていましたが、認知症が進んで、特別養護老人ホームのお世話になりました。でも、施設に預けっぱなしにしていたワケではありません。ときどき、家に連れて帰り、そのときは夜間巡回訪問もお願いして、事故が起きないように注意しました。両親を看送ったあと、今度は自分自身が『要介護』にならないよう、こうやって病院に通いながら、気をつけてます」 男も「介護」を熱く語る時代だ。
<2005年5月20日>

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検証・まち  
<介護はいま>
6
孤独に強く自分らしく
「世帯類型別にみた高齢者の割合を見ると、子供との同居が減少し、『一人暮らし世帯』や『夫婦のみ世帯』の高齢者の割合が増加してきている。今後も一人暮らし高齢者は増加を続け、2015年には500万世帯程度、夫婦のみ高齢世帯も600万世帯程度となり、両方合わせると1000万世帯を超える見通し」(国立社会保障・人口問題研究所『日本の世帯数の将来推計』平成15年10月推計)
   
―◇―   ―◇―
     市川市内に住むNさん(82)は、現在、一軒家にひとり暮らし。居間の仏壇には、夫と娘の写真。ふたりとも、もの言わず、微笑んでいる。
 Nさんのこれまでの人生の約20年間は、「介護一途」だった。40代から12年間、病院でつきっきりの介護をして娘を看送った。70代で夫の在宅介護をしていたとき、介護保険制度がスタートした。夫は「要介護5」と判定された。ホームヘルプサービス、訪問看護、訪問入浴などがNさんの家に入り、
 「良かったと思います」
 ヘルパーさんが夫の看守りをしてくれている間に、
 「おつかいをしたり、ちょっと息抜きをすることもできました」
 真夜中に夫が急に熱を出したり腹痛を起こしたときも、
 「市医師会訪問看護ステーションの夜間電話相談で応急処置を教えてもらい、とても心丈夫でした」
 夫の日々の容態が細かく書き込まれた、思い出の「訪問看護記録」ノートは、今も大切にしている。
 実際に在宅介護・看護サービスを使って思うことは、
 「感謝の気持ちを忘れず、サービス提供者と良い人間関係を育てていくことが大事。それが基本じゃないかな。お金(保険料)を払っているのだから『サービスしてもらうのは当然』という考え方はいけません。生まれてまだ5年の保険制度を、上手に育てていくのは国民みんなの責任。私たち高齢者も、甘えてばかりはいられない」
 家族を看送ったNさんは、自分の終の棲家探しを始めた。親類から「一緒に住まないか」と言われたが、「自分の力でできる限り生きたい」。
 「ひとり」は寂しくない?
 「ひとりには、ひとりの自由がある、自分らしく生きるには、ひとりがいい。そう決めたら、求めない。要は、孤独に強くなることです」
 市地域福祉支援課で千葉県内の「ケアハウス」や「有料老人ホーム」の一覧表をもらった。その中から、いくつか、パンフレットを取り寄せたり、「1日体験」に参加したりもした。遠くまで足をのばすと、病院が併設されていたり、『白亜の殿堂』のような豪華施設もあったが、けっきょく、
 「いま住んでいる自宅から歩いて行ける距離の施設に決め、申し込みをして来ました。60年暮らし、勝手知ったこの街でなら、ひとりでも、自分らしく、自然体で生きられそう」
<2005年5月27日>
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検証・まち  
<介護はいま>
7
理想の介護を求めて
『これまで、一人一人が住み慣れた街で最期までその人らしく生きることを保障するための方法として、現在の在宅サービスを複合化・多機能化していくことや、新たな「住まい」の形を用意すること、施設サービスの機能を地域に展開して在宅サービスと施設サービスの隙間を埋めること、施設において個別ケアを実現していくことなどについて述べてきたが…』(『2015年の高齢者介護〜高齢者の尊厳を支えるケアの確立に向けて〜高齢者介護研究会報告書より抜粋』)
 いま、介護を提供する側の人たちは、それぞれの「理想の介護」を熱く語っている。
 一方、要介護高齢者・家族側にも、「こんなふうに介護されたい、してもらいたい」という理想があるだろう。「在宅で」「施設で」、双方の思いが合致したとき、はじめて本当の「理想の介護」となる。
   
―◇―   ―◇―
     「理想の介護」に燃えている人が、ここにも、ひとり。
 中川修子さんは平成8年、市川市八幡に有限会社「老人介護情報センター」を設立。「高齢者施設入所相談」「訪問介護サービス」「よろず相談」「生きがいづくり」など、さまざまな介護に関する情報やサービスを提供してきた。その経験をいかして現在、「24時間ヘルパー常駐高齢者向け賃貸住宅」(「ハッピーニューライフ東船橋」「同市川北方」)の運営も行っている。
入居者の笑顔は「安心感」から生まれるという中川さん(写真右)=ハッピーニューライフ東船橋
 シニア向け住宅選びのコツは、「入居者の方に笑顔があるかどうかを見てください」と中川さん。
 「リビングなどの共有スペースに自然に人が集まってくるかも大切。そして、スタッフに笑顔があるかどうかも見てください。時間に来て時間に帰るだけで、楽しく働けないようでは、数か月のサイクルで入れ替わってしまいます。それでは良い介護はできません」
 入居にあたり、
 「私は、必ず(入居者の)自宅も訪ねています。建物の雰囲気や家族との関係、ベッドの位置などを環境に反映させるためです。(そうやって)落ち着ける空間を作っていくことが必要です」
 体験入居は、1週間から1か月におよぶ場合もある。その間に、
 「他の入居者と折り合いをつけて暮らしていけるように家族にも協力していただきますし、私たちも最大限に努力していきます」
 両施設を訪ねた。入居者とスタッフの「笑顔」が印象的だった。
<2005年6月3日>
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検証・まち  
<介護はいま>
8
臨機応変が理想でも…
「ご主人の召し上がるご飯は、5勺(約75グラム)ですよね」
 そう言って、ホームヘルパーは、きっちり5勺の米をとぎ始めた。
 そんな、介護保険ホームヘルプサービスにまつわる「笑えない、笑い話」は数知れず。
 何もそこまで「要介護者のためだけ」にこだわらなくてもいいのに…。ちょっと融通をきかせて、私(介護人)のぶんも含めて一合炊いてくれたら助かるのにと、妻は思うだろう。
 ヘルパー側は、
 「そういう規則になっておりますので」
 どこかでキッチリ線引きをしないと、何のため、誰のためのサービスか分からなくなってしまう。
 たとえば、こんな話もある。
 洗濯物の中に、元気な息子の洋服を混ぜ込んで『洗ってくれ』という要支援高齢者。いちどOKしたら、どんどん息子の洗濯物が増えていった。
 「息子を思う親心」まで支援することはできない、か?
   
―◇―   ―◇―
 「今回だけですよ」と念押ししながら、ケアマネジャーのSさんは、自分がケアプランを立てたIさん(要介護5)の家の庭掃除を手伝った。
 派遣したヘルパーの一人から、「あそこのお宅は、庭が荒れていて、蚊が大量発生し、家に入り込んでくる。サービスをしているとき、蚊に刺されてしまった。どうしましょう?」と報告があがったからだ。
 ―ケアマネジャーはヘルパーの要望に、気を遣う?
 「いま、介護現場で働くには、ヘルパー2級資格はアタリマエ。
向上心のあるヘルパーは、1級、ケアマネ、介護福祉士と、『上』を目指して頑張っています。できるだけ応援してあげたい。私は、現場の調整役」
 Iさんの家族に事情を説明した。だが、長期化した介護で、庭の手入れをする金も力もないという。
 「それなら、今回だけですが、私もお手伝いしますから、一緒に庭を掃除しましょう」
 ケアマネの申し出に、家族も動いた。
―介護保険でヘルパーが「できること」と「できないこと」の明確な線引きは、必要?
 「それぞれの家庭の事情を考慮した上で、臨機応変に基本サービスをアレンジしていくのが理想ですが…」
―現実は?
 「家事サービスは多岐にわたる。どこかで線を引かないと、キリがありません」
―たとえば、庭の掃除は?
 「『できないこと』の部類に入るでしょうね。だから、『今回だけですよ』と念押しして、お手伝いしました」
―Sさんが「誘い水」したIさん宅の庭掃除の、その後は?
 「家族も、外まわりの掃除で気分転換、自力でやってくださるようになりました。結局、介護環境改善にもつながったと思っています」
<2005年6月3日>
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検証・まち  
<介護はいま>
9
注目される心の介護
目に見えない心の介護が、いま注目されている。
 船橋市内の高齢者施設で「お年寄りの話を聴くボランティアをしている」女性に出会った。初対面から、話し相手をすっと包み込むような笑顔が印象的だった。
 通称「傾聴ボランティア」。船橋市福祉サービス公社が平成14年から主催している傾聴ボランティア養成講座の修了生(3期生)。現在、手弁当・交通費自分持ち、無償で、施設入所者の話を「傾聴」している。
 ―「傾聴」とは?
 「基本的に、じっくり相手の話に耳を傾ける。相手に喜ばれ、私自身にとっても満足感の得られる仕事です。詳しいことは公社の担当者に問い合わせてください」
 あらためて、同福祉サービス公社を訪ねた。
  ―「傾聴ボランティア養成講座」の受講資格は?
 「正式名称は『船橋市シニアピア・傾聴ボランティア員養成講座』。市内在住の元気な60歳以上の人を対象にしている。参加は無料」
 ―これまでに同講座で養成した傾聴ボランティアの人数は?
 「約180人。第1期生は、40人の定員に対し270人もの応募があった。いまは6期生(29人)が同講座を受講中」
 ―養成期間は?
 「月2回のペースで、約5か月かけて40時間以上の講義・ロールプレーをこなす。施設実習もある」
 ―シニアがシニアの話し相手となり、支え合うシステムだが、最高齢の受講者は?
 「80歳」
 ―現場派遣については?
 「講座修了生は、『傾聴ボランティア員』として公社に登録し、依頼を受けた高齢者の自宅や施設を訪問する。受講終了生の約7割が稼動している。公社では月1回、事例検討会を開き、ボランティアの傾聴を傾聴しているが、『初対面からすぐに相手と打ち解けて話ができた』という人もいれば、『相手の心を開くまでに1年くらいかかった』という人もいる」
 参考までに、簡単な「傾聴技術」をいくつか教えてもらった。
〈その1〉毎回、同じ話を繰り返す高齢者に対しては…。
 「同じ話を繰り返すのは悪いことかな?」「なぜ、繰り返すのかな?」と考えてみよう。繰り返しは、その人の、何度言っても言い足りない「こだわりの部分」。そう思えば、「また、あの話を聴けるかな」という気持ちになってくる。
〈その2〉傾聴の場合、話の合いの手に、どんな言葉を入れるか?
 たとえば、「そうなんですか」「あなたはそう思っているんですね」。自分と意見が合わなくても、批判しない。
〈その3〉話が長くなり、引き止められたときは?
 永遠の課題ではあるが、時間を決めて話を聴き、「つづき」は次回会うときまでのお楽しみとする。
傾聴ボランティアでは、1回の傾聴を1時間としている。
<2005年6月17日>
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検証・まち  
<介護はいま>
10
急速に進歩した介護用具<1>
最近の福祉用具のカタログの中に、「暖房洗浄便座付き家具調トイレ」があった。商品説明には、「たっぷりの泡で水面にフタをして、イヤなにおいをほとんど漏らさない『泡ガード』機能。ゆらぎ水流が広い面積を気持ち良く洗います。タンクは持ち運べるから給水もラクラク」とある。値段は消費税込み約13万円。他の腰掛便座に比べ高額だが、「購入福祉用具」として介護保険が適用される商品だ。
ちなみに、同保険対応の購入福祉用具は、「腰掛便座」のほかに「特殊尿器」「入浴補助用具」「簡易浴槽」「移動用リフトつり具部分」がある。
同貸与(レンタル)福祉用具は、「車いす・同付属品」、「特殊寝台・同付属品」、「じょく瘡(そう)(床(とこ)ずれ)予防用具」「体位変換器」「手すり」「スロープ」「歩行器」「歩行補助つえ」「認知(痴呆)性老人徘徊感知機器」「移動用リフト(つり具部分を除く)」
  総じて、デラックス感あふれるものから、機能的で場所を取らないお手ごろ価格のものまで、いま、福祉用具は急速に進歩している。
人気の折りたたみシャワーベンチ。使用後に折りたためば、女性でも簡単に持ち運べる
 
―◇―   ―◇―

  「『洗浄便座』は、もともと福祉用具として開発されたものです」
だから、ポータブルトイレに洗浄便座が付いても、驚いちゃあいけませんよと、福祉用具専門リフォーム「あっぷる」(市川市八幡三丁目)の中川文二さんは笑う。
中川さんの名刺。名前の前には「しんせつ係」とある。
―しんせつ係?
「ひらがなで書いてあるところが、いいでしょう。この職名、お年寄りにもウケてます」
 同店の、最近のヒットおすすめ商品を聞いた。
「たとえば、この、折りたたみシャワーベンチかな」
2万円弱、軽量(約4`c)、高さ調節OK、簡単に折りたためて場所を取らない。要介護認定があれば、定価の一割負担で購入できる入浴補助用具だ。
―ほかに、オススメ商品は?
 「う〜ん、うちは、それぞれの(介護)現場に合わせ、介護されるご本人、介護する人に合わせてオススメしていますからね」
―現場主義?
 「この道15年、ほとんど毎日、現場をまわっています。うちの店では、手すりの取り付けなど、年間300件以上の住宅改修(リフォーム)もやっています」 (つづく)
<2005年6月24日>
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検証・まち  
<介護はいま>
11
急速に進歩した介護用具<2>
不注意で右足の指を打撲。予想以上に腫れあがり、痛みが治まるまで自宅では壁を伝い歩き、入浴・階段の上がり下りはふだんの2倍も時間がかかった。
 腫れた足が靴に収まらず、サンダル履き、スローペースで出勤の途中、交互歩行器を使いながら歩いている高齢者が目に止まった。足元は、福祉用具カタログに載っているような「リハビリシューズ」。後ろから「チリチリン」と自転車に追い立てられても、左右に一歩、また一歩と頑張っている。思わず応援したくなった。
 実際に歩行が困難になって、改めて、公共施設の手すり、エレベーター、エスカレーター、段差の少ない路線バスの昇降口などのありがたみが分かった。
   
―◇―   ―◇―
     福祉用具専門リフォーム店の「しんせつ係」・中川文二さんに、介護保険適用住宅改修の現場(市川市内)を見せてもらった。
 1軒目は、要介護認定高齢者がこれから住むことになる一戸建て中古住宅。とりあえず一般的なリフォームは完了しているが…。
 中川さんは、まず、入居予定者の身長・体重・要介護度・日常の動き(歩行の様子)などを確認。その上で、外門から玄関、玄関から居間、台所、風呂、洗面所、トイレと、動線をたどっていく。
 外門から玄関先まで等間隔に埋め込まれた敷石、高い玄関の上がりかまち、部屋と部屋との間の段差、扉の開閉など、次々に問題点があがってくる。
 「敷石は、つまづきやすく、危ない」「たとえば、ここと、ここに、手すりをつけてみましょう」「この扉は開き戸ではなく引き戸にしたほうがいい」など、提案する中川さん。現場で、アッという間に図面を引いていく。
 2軒目は、手すりの取り付けを頼まれた高齢者二人暮らしのお宅。古風な一戸建て住宅の玄関・廊下・風呂場などには、既に手すりが何本か付いているが、洗面所にもう1本足したいという。
 「夫の介護の合い間に、廊下の太い手すりで屈伸運動をしているんですよ」と、妻。
 手すりは、夫の転倒予防だけでなく、妻のリフレッシュ体操にも役立っているようだ。
 帰り際、無意識に玄関脇の手すりをつかんで靴を履いた。
 「ちょうどいい場所に(手すりが)付いているでしょ」と、中川さん。
 そう言われれば、そうかな?
 「ここで、目をつぶって片足で立ってごらんなさい」
 ぐらつく。10秒立っているのがやっとだ。
 「指1本、壁に触れたら、どうかな?」
 今度はぐらつかず、いつまでも立っていられる。
 「指1本の支えだけでも、自分の位置が確かめられ、体のバランスが取れるんですよ」
 だから、
 「転ばぬ先の手すり!」
 なるほどね、と顔を見合わせて笑った。
<2005年7月1日>       
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検証・まち  
<介護はいま>
12
自信をつけさせる<上>
54歳の主婦・E子さん(パート勤務)は昨年から、週1回フィットネスクラブに通い、マシンを使った筋力トレーニングに励んでいる。
 「私が使っているマシンは、動かすと、使用者の筋力がデジタル表示される。少しでも数値が上がると、うれしいですね」
 夜の時間帯は勤め帰りの若者・中年層が多いが、昼間は、
 「60〜70代の人たちが驚くほど多いですよ」
 クラブのコーチに、「ムリをしないように」と声をかけられながら頑張るいまどきの前期高齢者の姿を間近で見て、
 「好奇心・チャレンジ精神旺盛。いつまでも活動的でいたいと思う気持ちが強いんだなあと感心します」
 老いも若きも筋トレブーム。来年4月から施行される改正介護保険でも、新サービスの「介護予防」メニューに、軽度の要介護者や要介護になる危険性の高い高齢者の状態の維持・改善を目指す筋力トレーニングが盛り込まれている。
 そんな流れの中、高齢者向け筋トレマシンの開発は盛ん。業者のパンフレットの中に、ネーミングのおもしろさで思わず試してみたくなるようなものがあった。
 たとえば、「おし丸」「けり丸」「あけ丸」「ひき丸」。
 「日本人高齢者の体格を考慮して設計された、安全で使いやすい介護予防筋トレマシン」に付けられた名前だ。
 「おし丸」(一般名称=リカンベントスクワット)は、肩幅の間隔に開いた足でフットプレートを押し、「下肢全体を強化して、立ち座りや階段昇降などの動作に効果あり」
 「けり丸」(レッグエクステンション)は、ひざを伸ばしながら足首で重りをけり上げ、「大腿4頭筋を強化して、膝への負担を軽減、歩幅を広げる」
 「あけ丸」(ヒップアブダクション)は、足を左右に大きく開け、「中殿筋を強化して、ふらつきを解消、安定性を高める」
 「ひき丸」(ローイング)は、手でグリップを引き、「広背筋を強化し、猫背の予防、改善を図る」
 4つがそろうと、「生涯現役カルテット」。
 どれも、笑いを誘うネーミングで、マシンに対する不安感・恐怖心を取り除いてくれる。
 「介護予防」の筋トレマシン指導者用マニュアルには、お年寄りが「できないことを実感させない」ための声かけテクニックが挙げられている。参考までに、その一部を紹介すると、
×「そうじゃなくて、こうですよ」
○「こうすると効果的ですよ」
×「重くてできないから、(負荷を)軽くしましょう」
○「軽くするとスムーズに動きますね」
 「だいじょうぶですか?」と必要以上に尋ねず、スムーズに出来たときに「うまくできましたね」と確認し、自信をつけさせるのがコツのようだ。  (つづく)
<2005年7月8日>
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検証・まち  
<介護はいま>
13
自信をつけさせる<下>
気がつけば、街中に介護系の店が定着している。介護用品店、在宅ケアセンター、介護情報センター、ホームヘルパーステーションなどが、「お気軽にご利用・ご相談ください」と看板を掲げている。
 気がつけば、朝夕、「○○デイサービス」と名の入った送迎カーが市内を走り回っている。
 今後、約4半世紀にわたって高齢社会が続くとみられ、介護業界は成長期から移行期を経て成熟期へと向かう。画一化されたサービスから抜け出し、個性的なサービスを提供する業者も出てくるだろう。
 行徳バイパス沿い(伊勢宿18の6)に、気になる店があった。山小屋風の造りで、一見、飲食店か趣味の店のようにみえる。
トレーニング・デイサービス「林檎館」。営業=月〜金曜日。山小屋風の内装・外装がシャレている
   確かめると、「トレーニング・デイサービス」の店だった。
 中に入ると、トレーニングウエア姿の60代後半の女性が、「機能訓練室」で「ウォーキングマシン」に乗り、「筋力向上トレーニング」に励んでいる。心拍数を確認しながら、20〜30分、この「有酸素運動」を続けるという。
―いつからここに通っているのですか?
 「今年、4月から」
―経過は?
 「おかげさまで、(歩行に)自信がつきました。海外旅行にも、行けるように、なりました」
 息を弾ませながら、うれしそうに語る女性。とても要介護認定を受けているとは思えない。
 「機能訓練室」には、ほかにも、介護予防筋トレマシン4台、エアロバイクなどが設置されている。
 介護保険適用のここの利用プログラムは、@受付A看護師による健康チェックBレクリエーションを取り入れたストレッチ・マット運動C筋トレD休憩E機能訓練・ゲーム・レクリエーションFコーヒーブレイク。既存のデイサービスとは異なり、1回3〜4時間で、食事・入浴は付かない。
 「トレーニング・デイサービス」と銘打ったのは、市内でここが初めてと、看護師の内形洋志さん。
 「トレーニングをメーンに、(利用者の)健康管理、維持、改善を目指します」。
 今年3月にオープンして、現在、月延べ90人ほどの利用者がある。
 利用イメージとしては、
 「自宅から離れ、ちょっと別荘にでも来たような気分を味わってもらえれば」と内形さん。
<2005年7月15日>
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<介護はいま>
14
サービス形態も多様化
改正介護保険法に、新たなサービス類型として追加される「小規模・多機能型」サービス。具体的には、
 「多様な形態が考えられる。当初から小規模拠点に多機能にわたるサービスを備える形態もあれば、既存のものが機能を拡大する形態もある。たとえば、小規模な通所系サービスが『通い』機能と併せ『泊まり』機能を持つ、あるいは、痴呆性(認知症)高齢者グループホームが『居宅』機能と併せ『通い』機能を持つ形態などである」(「介護保険制度の見直しに向けて」社会保障審議会介護保険部会報告)
   
―◇―   ―◇―
      「デイサービスをお考えの方必見! 見学会開催! 皆様の来場をお待ちしております」
 そんな新聞の折り込みチラシに誘われて、京成線鬼越駅近くの「デイサービスセンター ニッケ市川」(株式会社ニッケ・ケアサービス)を訪ねた。
ニッケ市川の浴室。車イスに乗ったまま入浴できる特浴機器(右)も設置されている

   所長の渕本武さんに、今年3月にオープンした同サービスセンターの特徴を聞くと、
@全フロア床暖房完備。入り口から隅々まで見渡せる広いフロア(約180平方メートル)は、カーペットが敷いてある部分が「デイルーム」、フローリング部分が「機能訓練室兼食堂」。
A食事は、調理師が施設内厨房で作ったものを提供。
B個人風呂・リハビリ用の歩行浴・ジェット風呂・泡風呂・超音波風呂・重度用の特浴など、7種類の風呂を用意。どれも循環湯は使わず、新湯をふんだんに注ぎ込む。
 現在、8人のスタッフ(介護職員3人、看護職員3人、調理師1人、管理者1人)のもと、一日平均10人前後(定員15人)の利用者が、ここでデイタイムを過ごしている―と渕本さん。
 年末・年始と日曜日を除いて営業。延長サービス(有料)は、最大2時間、夜8時まで。デイサービス利用者の緊急の「お泊り」にも、
 「食事代のみで、無料で対応しています。うちの自前サービスです」
―「お泊り」の相談は多い?
 「デイ利用者家族の話を聞くと、緊急時にすぐに対応してくれるところがなくて、本当にお困りのようです。いまのところ、お泊り事例はまだ少ないですが、様子をみながら、これからしっかりした受け入れ態勢を整えていきたい」
<2005年7月22日>
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<介護はいま>
15
サービス拡大に知恵絞る
<上>
市川市高谷の「特別養護老人ホームホワイト市川」(社会福祉法人市川会)は、特養・デイサービス・ショートステイ・訪問入浴・訪問給食サービス、在宅介護支援センターを擁し、地域の老人福祉の拠点となる施設を目指している。
 同施設の3階大ホール(約250人収容可)では、年に数回、特養利用者(定員80人)と家族・地域住民を交えたイベントが開かれていたが…。
 これまで個々に、小規模なイベントを開いていた地域のデイサービス利用者にも、大イベントを楽しんでもらおうと7月20日、この大ホールで、「ホワイト・香取・南行徳デイサービス合同交流会」が催された。
 イベントは、プロの落語家(3人)・奇術師(1人)を有償で招き、本格的な「寄席」の雰囲気を味わってもらおうというもの。
 午後1時、寄席の一行が到着。その中のひとり、三遊亭橘つきさんは、高座が設けられた大ホールをぐるりと見回し、
開幕30分前、「お客様」の様子をうかがう楽麻呂さん=写真右。どこに「笑点」を合わせるか…

   「この雰囲気、懐かしいですね。大学の落研(落語研究会)時代、老人ホームを訪ね、泊めていただくかわりに、落語を聴いてもらったり、介護のお手伝いをしたことを思い出しますよ」
 客席はじわじわと埋まっていく。一番乗りの80代女性に、 
―落語、お好きですか?
 「ほほほ…。ホールをのぞいたら、落語家さんがここに来るっていうんで、待ってるの」
―ここのデイサービスをご利用ですか?
 「いいえ、特養のほうよ」
 デイだけでなく、特養のお客様も大歓迎のようだ。
 今日の寄席の「トリ」を務める三遊亭楽麻呂さん(真打)は、ホールの隅で、集まってくる人たちの様子をじっとうかがっている。
 「『笑い』は百薬の長。笑うと血糖値が下がり、免疫力が上がるんですよ。落語は、お年寄りにちょうどいい」と楽麻呂さん。出し物は?
 「ギリギリまで決めない。会場の雰囲気をつかんで、今日はどこに焦点を合わせるか…」
 まさに真剣勝負。「本物の寄席を」という施設側の希望に応えようと、笑顔の中にも、眼光は鋭い。 
 午後2時、客席に、ホワイトデイ利用者(20人)・同特養(25人)・香取デイ(22人)・南行徳デイ(11人)、各施設スタッフなど、約100人の聴衆がそろい、寄席の幕が開く。             (つづく)
<2005年8月5日>
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検証・まち  
<介護はいま>
16
サービス拡大に知恵絞る
<下>
 7月20日、市川市高谷の「特別養護老人ホームホワイト市川」(社会福祉法人市川会)3階大ホールで開かれた「ホワイト・香取・南行徳デイサービス合同交流会」。
   オープニングのあいさつは、同園長・木城徳蔵さん。
 「(3施設が)合同で催しをするのは、今回が初めて。遠くからお越しいただいたみなさん、どうもありがとうございます。これからも、毎年、このような催しを開きたいと思っていますので、来年も必ず元気で来てくださいね。待っています!」
 出囃子が響き、この日のイベント、「寄席」が始まった。約百人のお客様の目と耳は、ホール舞台中央の「高座」に集まる。
 立川松幸さんが古典落語『子ほめ』、三遊亭橘つきさんが同『かぼちゃ屋』、有紀天香さんがハト・紐、風船などを使ったマジックで会場を盛り上げたあと、羽織姿の真打・三遊亭楽麻呂さんが登場。お年寄りに縁のある医者の話題をまくらに、薬の処方箋を読み違えた夫婦の滑稽を描いた古典落語『目薬』を熱演。拍手喝さいを浴びた。
デイ利用者から花束を贈られる(右から)天香さん・楽麻呂さん・橘つきさん・松幸さん

  客席前列に陣取っていた八十代の女性ふたりは、
 「落語を聞くのは、十数年ぶり。 やっぱりホンモノはいいわ」
 「そうそう、わたし、若いころ、夫と一緒に上野や新宿の寄席に通っていたのよ。いまは、足が不自由になって、なかなか外に出かけられないでしょ。だから、また、ここで、ナマの落語を聞けてよかった!」
 香取デイから送迎バスに乗ってやって来たという83歳女性は、
 「おもしろかったですよ。たまには、いつもと違う場所に来るのも、気分が変わって、いいわね」
    約一時間の寄席は、中座するお客様もほとんどなく、無事に「お開き」となった。
 今回、有償で、寄席一行を招いた同施設。参加者の好評を受けて、同事務長の内山久美子さんは、「まだまだ限られた中での交流。この一回目をキッカケにして、今後は、地域住民の方々も巻き込み、交流の輪をひろげていきたいですね」
 同専務理事の石井勉さんは、「お年寄りの介護は、街の仕事。これからも、デイのスタッフ自らが楽しいことを企画していきたい」。
 帰り際、施設の玄関先で、送迎バスに乗り込むお年寄りが、職員に、「また来るね」と手を振っていた。
<2005年8月19日>
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<介護はいま>
17
難解な計算の仕組み
7月半ば、市川市から送られてきた「納入通知書(介護保険料額決定通知書)兼特別徴収開始通知書」を見た、80歳のTさんの第一声は、
 「エーッ、保険料が上がるの?」
 同通知書の「期別・月別保険料額内訳」で、今年度1期(4月)・2期(6月)・3期(8月)分に比べ、第4期(10月)以降の保険料額が約3千円上がっている。そのワケは?
 保険料額に「大異変」がない限り、通知書を放っておくTさんだが、今回は細部まで読み込んだ。すると、こんな説明文が…。
    『4月・6月・8月は、《仮徴収》。前年の所得が確定していないため、暫定的に前年度2月分と同額を納めます。10月・12月・2月は、《本徴収》。確定した年間保険料額から仮徴収分を差し引いた額を、3回に分けて納めます』
 同封のピンク色の書類には、
 『保険料の段階は、年度ごとに前年のご本人、世帯員の所得と4月1日現在の世帯状況により決定します』
 Tさんには、思い当たることがある。
 「…もしかしたら、10月以降の保険料額が上がるのは、わたしが臨時収入を申告して、住民税を納めるようになったから? 『保険料の段階』って、何?」
 市介護保険課のパンフレット(平成17年度「65歳以上の人の介護保険料ガイド」)も取り出して、読み始めるTさん。
 そこには、『65歳以上の人の保険料は、介護サービスにかかる費用などに応じて市区町村ごとに基準額が決まります。保険料額は、その基準額をもとに、所得などに応じて5段階に調整されます』とあった。
 現在の市川市の「基準額」は、年額37680円。いままで、Tさんは、「第3段階」(世帯の誰かに住民税が課税されているが、本人は住民税非課税)で、「基準額」を納めていた。ところが、臨時収入を申告したことによって、「第4段階」(本人が住民税課税で前年の合計所得金額が200万未満)となり、基準額の1.25倍、つまり年額47100円を納めなければならない。
 確かに、送られてきた納入通知書には、「第4段階」の文字。
 電卓を取り出し、計算すると、なるほど、10月以降の約3千円アップが理解できる。では、収入がもっと増えたら、どうなるの?
 『前年の合計所得金額が200万円以上になると、第5段階で、保険料は基準額の1.5倍(年額56520円)になります』 
 収入が多くなると、そのぶん多目に保険料を納めなければならないということだ。
 「つまり、収入が増えなければ、保険料額も上がらないのよね」
 念のために、パンフレットを隅々まで読み込むTさん。
 すると、
 『保険料は、3年ごとに見直されます。次の見直しは、平成18年度です』
 ということは…。
<2005年8月26日>    
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<介護はいま>
18
これからどうなる??<上>
平成18年度から、本格的にスタートする改正介護保険。「何が、どのように変わるのか」と、気になる高齢者も多いことだろう。
  さきごろ開かれた、市行徳在宅介護支援センター主催の「第2回介護予防教室」を訪ねた。
 「最近、利用者に、改正介護保険について質問されるが、何とも答えようがないので」と、同センターが選んだこの日のテーマは、「どうなるの? これからの介護保険」。
 猛暑の中、会場の行徳公民館には、約40人の参加者が集まり、休憩を挟まず約2時間あまり、講師に招かれた市介護保険課職員の話に耳を傾けた。
    講義は、現行の「介護保険の申請の仕方」「サービスの内容について」をざっとおさらいしたあと、「市川市の介護保険の状況」に進む。
 介護保険スタートから5年が経過、「(市内の)認定者・サービス利用者は増加、第2期介護保険事業計画(平成15〜17年度)としては、おおむね順調に推移している」と同課職員。
90代女性も参加した「介護予防教室」=行徳公民館。地域住民の介護保険への関心は高い

 この「おおむね順調な推移」を、配布資料の数字で追っていくと、
○「市内の要介護認定者数」は、平成12年4月の約4000人から年間約1000人ずつ増え続け、同17年3月で約8800人と、5年間で約2倍になっている。
○「要介護度別人数」は、特に軽度認定者(「要支援」「要介護1」)の数が目立ち、「要支援」は5年間で約2.5倍(439人→1118人)、「要介護1」は約2.7倍(1072人→2853人)。現在、軽度認定者数は、全認定者数の約45%。
○「居宅サービス種類別利用人数の推移」では、5年間で「訪問系サービス」が約2.7倍(約1500人→約4000人)、「福祉用具貸与」(500人弱→約2200人)の伸びも著しい。
○「市内の指定事業者等の状況」は、平成17年3月現在、居宅介護支援事業者=63、居宅サービス事業者=146、介護保険施設=16。
 平成15―16年度に、デイサービス施設が急増(18→32)するなど、事業者参入は今後も見込まれ、サービス利用増に対してサービス費用はどんどん上がっていく状況にある。
 ちなみに、「保険給付額」は5年間で約2倍(58億3千万円→114億3千万円)。
                 (つづく)      
<2005年9月2日>
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検証・まち  
<介護はいま>
19
これからどうなる??<中>
介護保険スタートから5年が経過。介護サービスは、『措置』から『契約』に変わり、サービスの自己選択・決定がうたわれ、市川市内の認定者・サービス利用者数は5年間で約2倍に増加している。
 これから、改正介護保険で何が変わるか。いまのところ市では、大体のイメージは出来上がっているが、「細部については検討中」が多い。
 行徳在宅介護支援センター主催「介護予防教室」(テーマ『どうなるの? これからの介護保険』)での、市介護保険課職員の話を、配布資料も交え、かいつまんで紹介していくと、
 『見直しの基本的視点』は3つ。
○制度の「持続可能性」=給付の効率化・重点化。保険者(市町村)の権限を強化し、サービスの適正化を図る。
○明るく活力ある超高齢社会の構築=予防重視型ステムへの転換。
    介護予防システムを確立し、軽度認定者の給付を見直す。
○社会保障の総合化=効率的かつ効果的な社会保障制度体系へ。
 これらの基本的視点をふまえ、『介護保険制度改革の主な内容』は6つ。
@ 予防重視型システムへの転換=具体的内容は新予防給付・地域支援事業の創設。
A施設給付の見直し=居住費用・食費の見直し、低所得者等に対する配慮。
B新たなサービス体系の確立=地域密着型サービスの創設、地域包括支援センターの創設、居住系サービスの充実(有料老人ホームの見直し等)、医療と介護の連携の強化、地域介護・福祉空間整備等交付金の創設。
C サービスの質の確保・向上=情報開示の標準化、事業者規制の見直し。ケアマネジメントの見直し。
D負担の在り方、制度運営の見直し=第1号保険料の直し、市町村の保険者機能の強化、要介護認定の見直し、介護サービスの適正化、効率化。
E被保険者・受給者の範囲の見直し=社会保障制度の一体的見直しの中で検討・結論。
 Aは今年10月から、@BCDは、平成18年4月から施行。Eは現在、国で検討部会が設けられており、同18年度末までに結論。
 心配の声が高い、「軽度認定者の見直し」については、
 「(来年の)4月1日前に要介護認定を受けている人は、(認定の)有効期間中は現行の要介護度は変わらず、今までどおりのサービスが受けられる。有効期間が切れて、次の更新のとき、あらためて介護認定審査会で判定。4月1日ですぐに今までのサービスが受けられなくなるということではない」
 更新後、
 「仮に、『要介護1』から『要支援2』になったとしても、適切なケアマネジメントに基いたサービスプランを作成することになっており、今まで受けていたサービスが一律にカットされることではありません」
                (つづく)
<2005年9月9日>
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検証・まち  
<介護はいま>
20
これからどうなる??<下>
新体制の介護保険では、「保険料の在り方」も見直される模様。65歳以上の「第1号保険料」は、現行の「第2段階」を細分化し、負担能力の低い層には、より低い保険料率を設定。これは、現行の設定では、所得水準の低い人には負担が重かったという反省をふまえたもの。「新第2段階」の対象者は、「市町村民税世帯非課税で、合計所得金額と課税年金収入額の合計額が年80万円以下の者」(市川市介護保険課)。
  
 ―◇―   ―◇―
    「何か、ご質問は?」
行徳在宅介護支援センター主催の「介護予防教室」で、真っ先に手を挙げたのは、さきごろ「要介護一」の認定を受けたという独居の90歳女性。
「わたし、よたよたしているわりには、頭はしっかりしているのよ。何とか自立生活して頑張っているけど、掃除がねえ…。(改正介護保険になっても)ヘルパーさんに来てもらえるかしら?」
改正介護保険で、「要介護状態区分」は、現行の6区分(要支援、要介護1〜5)から7区分(要支援1〜2、要介護1〜5)に変わる。
 新区分で「要介護1〜5」と認定された人は、いままでどおりの「介護給付」を、「要支援1」、「同2」と認定された人は、新たに創設される「新予防給付」を受けることになる。
現在、市内全認定者数の約3割を占める「要介護1」の人たちは、新体制後の更新でそのまま「要介護」グループにとどまるか、それとも「要支援」グループに入るか…。
 判定基準は個人差もあり、むずかしいところだ。
『大丈夫、(ヘルパーさんに)来てもらえますよ』とセンター職員。
「最近、力がなくなってきたの。掃除が面倒で…」
『大丈夫、年を取れば、みんなそうなります。動きたくなくなります。でも、動いてください。体を使って元気になってください。この会場(行徳公民館)までいらっしゃることだって、すばらしいことですよ』
「わたし、できるだけ介護保険のお世話にならないで頑張ろうと思っているのだけれど、ひとり暮らしでしょ。病気になったときのことを思うと…、いろいろ不安で、気をもんでいます。体がもっと弱ったら、そのぶん心配してもらえるの?」
介護予防教室の講師に招かれた市介護保険課職員が答える。
「認定には有効期間がありますが、お年寄りの体の状態に変化があれば、区分変更の申請もできます。急に体が弱ったら、その時点でまた(区分変更の)申請をすれば、訪問調査などをして、再度認定審査会で認定されます」
『困ったときは、いつでもうちのセンターに来てください。皆さんのことは、よく分かっています。何らかの知恵は出ますので、住み慣れた地域で、皆で、元気にやっていきましょう』と、センター職員も答える。
<2005年9月16日>
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検証・まち  
<介護はいま>
21
運動能力向上基本に<上>
介護保険と同時(平成12年)に制度化された「介護予防・地域支え合い事業」は、高齢者の健康づくりのための総合的な事業。自治体は、国が示す「包括メニュー」(高齢者等の生活支援・介護予防・生きがい活動など)の中から、地域の実情に合ったサービスを選択する。事業費は国が二分の一、都道府県が四分の一、市町村が四分の一を負担。
 三者合わせて、約9百億円の予算が同事業に計上された平成15年、国の「包括メニュー」の中に「高齢者筋力向上トレーニング」が加えられた。厚生労働省のガイドラインは、同事業の対象者を、
 「おおむね60歳以上の在宅高齢者で、事業実施により効果が期待できる者」とし、「転倒骨折の防止・加齢に伴う運動機能低下の防止の観点から、負荷量の微調整が可能な高齢者向けに開発されたトレーニング機器を使用し、運動能力向上に資する包括的トレーニングを行う」ことになっている。
「気楽に、ゆっくり、じっくりいきましょう」。市職員の初日あいさつを聞く参加者たち

 プログラム実施期間は「おおむね三か月程度」。事業内容は「@専門スタッフ(医師・理学療法士・健康運動指導士・保健師など)が事業開始前に対象者の健康状態・生活習慣・体力などの個別状況を把握A個々の特性に合わせ、体力測定等による初期評価を行った上で、対象者の筋力を高め、柔軟性とバランス能力向上を期待できる包括的なトレーニングプログラムを作成B終了時に、参加状況・生活改善状況・効果測定などの評価を行うとともに、対象者が継続してトレーニングを行えるように配慮する」
   「高齢者ミニデイセントー」「いきいき健康教室」「エンジョイはつらつシニア教室」など、お年寄りの健康づくりを積極的に図る市川市も、今年9月から、モデルケースとして、「高齢者のための筋力向上トレーニング事業」を開始。市から同事業を委託された介護老人保健施設「葵の園・市川」(医療法人社団葵会・大野町3丁目)では…。
 9月6日、同事業初日。予定時刻より早目に集まった参加者たち(10人)は、会場に並ぶ7種類の「高齢者向けトレーニング機器」をちらりと横目で見ながら、少し緊張気味。看護師のバイタルチェックを受け、これから3か月(全24回)のトレーニングを共にする仲間と対面する。その後、多くのチェックを経てゆく。マシンとの距離は、まだ遠い。(つづく)
(2005年9月23日)
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検証・まち  
<介護はいま>
22
運動能力向上基本に<中>
介護・介護予防の世界で、「結果を出す」ということばが聞かれるようになった。
 特に、介護予防は、いま、その実効性が問われているだけに、「誰に対して」「何をするのか」「効果はあるのか」を明確にしなければならない。
 たとえば、介護予防メニューの中のひとつ「筋力向上トレーニング」も、対象者を事前に評価し、個別の運動プログラムを作成、機器を使ったトレーニング終了後の結果を数値として表す。
 もちろん、個人差はあるが、「何となく、良くなったような、気がする」だけでは済まされない取り組みのようだ。
   
―◇―   ―◇―
     「介護を必要としない体づくりを目指して、機器を使った高齢者のための筋力トレーニングを行います。回数は24回で、理学療法士等が指導。初めに個々の身体機能をチェックし、その人にあったトレーニングをします。また、最後に体力測定を行いますので、成果も確認できます(高齢者支援課)」。(8月6日、市川市広報)。
 この、呼びかけに、「対象年齢(65―75歳)を超えた人からの問い合わせもあり、市民の関心がうかがえた。8月中に、定員(10人)に達した」(同課)。
 諸条件をクリアし、9月から、介護老人保健施設「葵の園・市川」で同トレーニングに励む人たちに、参加の動機を聞いた。
目標を定めたマシントレーニングの前、念入りに準備体操。約20分かけて、体をほぐす

 最高齢のAさんは、「シャッキリとした姿勢で、詩吟の舞台に立ちたい」が目標。
 だが現状は、
 「支えがないと、立ち姿がかなり苦しい。歩くときは、『お達者カー』を押しています。足が体を支えられないの」
 筋力をつけて、もう一度晴れ舞台に。そんな思いが、Aさんをトレーニングマシンに導く。
 68歳のBさんは昨年、うつ状態になり、寝てばかりいて、歩けなくなった。病いが少し癒え、改めて自分の痩せて筋肉の緩んだ体を見て、ビックリした。このままではいけない。今年2月、ツエをついて、歩き始めた。4月、普通に歩けるようになった。最近は、郊外遊歩もできるようになった。
 「もっと元気になりたい」
 トレーニングに参加するようになって、「周囲から『表情が明るくなったね』と言われる。病いは、薬に頼るばかりではなく、自分から何かをしようと思ったときに治るんですね」。    (つづく)
(2005年9月30日)
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検証・まち  
<介護はいま>
23
運動能力向上基本に<下>
「高齢者筋力向上トレーニング」は、約3か月にわたる訓練を3期に分けている。
   第1期は、目的を正しく理解し、生活を変化させる基礎を養う「コンディショニング期」。事故防止のため、マシンの使い方を学び、軽い負荷でのトレーニングが中心となる。
   第2期は「筋力増強期」。基本的な技能を身につけ、個々人に合った負荷を設定し、筋力を向上させるトレーニングを行う。
   第3期は「機能訓練期」。鍛えられた筋力を生活機能向上に結びつけていく。
   9月半ば、市川市「高齢者のための筋力向上トレーニング」(第3回)会場を訪ねた。この日は、すでに「握力」「開閉片足立ち」などの「運動機能評価」を終えた参加者10人のマシンデビュー。
   会場に敷かれたマットの上で入念な準備体操のあと、4グループに分かれ、「ローイング」「ヒップアブダクション」「レッグエクステンション」「レッグプレス」の使い方を学ぶ。
トレーニングスタッフの模範動作を興味津々の面持ちで見つめる参加者たち

   トレーニングスタッフの模範動作を食い入るように見つめる参加者たち。
   「それでは、やってみましょう」
   指導員に導かれ、皆、ゆっくり、ゆっくり、マシンを動かす。
   「同じリズムで、はいっ、いち、にー、さん、しー、いち、にー、さん、しー」
  あちこちから、マシンの感触を確かめ合う声が聞こえる。
   「(負荷が)重い?」
   「だいじょうぶ、軽い、軽い」
   「おっ、(動きが)上手くなったじゃないか」
   「いや、まだまだ、硬いね」
   「ローイング」を試している男性は、デジタルカメラを持ち出して、「私がトレーニングしているところを、写真に撮ってください」
   ―マシンデビューの記念ですか?
   「ブログ(インターネット上の公開日誌)に写真を載せるんですよ」と、なかなかの余裕。いまごろ、読者から、驚きと応援の便りが届いていることだろう。
   無事にマシンデビューを終えた参加者の感想は、
   「どきどきしながら、楽しかった」「おもしろかった」「だんだん負荷を上げていきたい」「興味を持った」「たぶん、続けられると思う」。中には、「帰宅して、体が痛くならなければいいのだけれど…」と、慎重派も。 (つづく)
(2005年10月7日)
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検証・まち  
<介護はいま>
24
運動能力向上基本に<終>
市川市から「高齢者のための筋力向上トレーニング」事業の委託を受けた介護老人保健施設「葵の園・市川」。同施設の理学療法士・田村薫さんに、参加者の様子を聞いた。
 ―筋トレ指導中、マシンに「恐怖感」や「不安感」を持つお年寄りもいるか?
 「最初は、その点を心配しました。でも、参加者の反応は、今のところ、『興味』に向いています。(同施設の)通所リハビリでも、マシンを使ったトレーニングを行っていますが、やはり『興味』がうかがえます」
 ―マシンの使い方は?
 「皆さん、想像していたより上手ですね。最初は、軽い負荷から始めますので、『もの足りない』という感じを持つ人もいます。でも、『もう少しやってみたい』というところでやめて、次につなげたほうがいい。くれぐれも、転倒や事故のないようにと、それを一番に考えています」
トレーニングスタッフの指導で、マシンを動かす参加者たち。無理のない訓練で筋力アップを目指す

   同トレーニングでは、事故防止のために、次のような「中止基準」が設けられている。
○最高血圧が180以上、最低血圧が110以上のとき。
○明らかに不整脈が多いとき。
○急性の整形外科疾患があるとき。
○明らかな神経症状があるとき。
○その他、医学的な判断でトレーニングの実施が不可能と判断されたとき。
 トレーニング初日(9月6日)、緊張で少し血圧が高めだった参加者たちも、回を重ねるにつれてリラックス。仲間づくりも順調に進んでいる。
 「肉体的な筋力の変化のみでなく、高齢者の生活行動範囲拡大も狙いです」と田村さん。
 週2回、トレーニングに通うだけでも生活にリズムやハリが生まれる。高齢だからとあきらめず、筋力をつけ、自信をつけ、どんどん行動範囲を広げていってほしい。11月25日の終了時には体力測定を行い、3か月間の訓練の成果を数値で確認する。
 市は、同様の高齢者筋トレ事業を、今年度中にもう一本予定している。対象者は、在宅の65―75歳。要介護認定で非該当、要支援、要介護1、同2の人。ほかにも、介護保険サービスの訪問・通所リハビリ利用者を除くなど、細かい規定があるが、年齢制限には「75歳以上でも、元気でやる気のある人はいる」との声もあり、次回からの年齢上限について考慮中。
(2005年10月14日) 
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<介護はいま>
25
今後の大きな課題
 関西のA市(人口100万超・高齢化率16.3%)の繁華街で、「『介護予防』では高齢者の生活は支えられません!」と題したチラシを手渡された。内容を読むと…。
 同市では、「介護サービスの利用が増えた」ことを理由に、「65歳以上の介護保険料を、一昨年30%値上げ、さらに今年月額約1000円増額」。にもかかわらず、「来年4月から、軽度認定者の家事援助(ホームヘルプサービス)や福祉用具の利用を大幅に制限しようとしている」と訴えている。
 国は、「適切なサービスは今までどおり利用できる」と回答しているが、
 「『適切なサービス』とは何かが曖昧」だと反論。
 一方、いまもてはやされている「介護予防」に対して、
 「それで、はたして高齢者の生活を支えられるか? ホームヘルプサービスは地域で生き、暮らすために欠かせない制度。自治体は、地域の介護水準を低下させないように、十分な検討準備が必要」とまとめている。
 「適切なサービス」とは何か?
この疑問は、A市だけでなく、これから各自治体・住民が抱えていく問題のようだ。
   
―◇― ―◇―
  市川市内でひとり暮らしのBさん(82)に、「老いの暮らし」を語ってもらった。
 「70代は、まだ『老いへの抵抗』があるのよ。自分が『老いた』ことは分かってはいるけれど、『まだ自分は大丈夫だ』『老いるものか』って、ネ。でも、そうやって抵抗しながら、心の底には、『老いへの不安』がある」
 80歳。個人差もあるが、だいいそこらへんで、スッと「老い」を「納得」できる。そして、肉体的な衰え以上に、
 「精神的な衰えが強い。『集中力』『根気』がなくなってきますね。何かをするとき、つい『おっくう』になる。たとえば、正座でも、しようと思えば何とかできるのに、『まっ、いいか』。そのうち、ほんとにできなくなる」
 「おっくう」「まっ、いいか」の撃退方法は?
 「気構え、ある種の努力が必要です。少しでもその努力をするか、しないかによって、老いの進み方は違ってくると思う」。
 立ち上がる、動く、外に出る、友と会う、集中できるものと向き合う。
 現在、Bさん宅には、時々ヘルパーがやって来る。買い物を頼んだり、世間話をしたりと、楽しいひとときだが、「来年からは、たぶん、来てもらえなくなるんじゃないかな」と、さらに「自立」の意を強くするBさん。
 「親類の見舞いで市内の老人介護保健施設に行っても、このごろのお世話は『自立促し型』。べッドのそばに便座を置かない。できるだけ、施設のトイレを使わせる」
 これからは「何となく、できない」は許してもらえない世の中?
 「10年後、90代の自分を想像すると、イヤになっちゃう。これ、本音!」。
(2005年10月25日)
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<介護はいま>
26
有終の美を飾るために
いま、一般的に、65歳以上の人たちは「高齢者」と呼ばれている。平均寿命が延び、「高齢期」は長くなった。
 老人学では、「高齢期」を2期または3期に区分している。2期区分の場合は、「前期(65歳以上―75歳未満)」「後期(45歳以上)」。3期区分では、「前期(65歳以上―75歳未満)」「中期(75歳以上―85歳未満)「後期(85歳以上)」。
 「高齢期」の区分名称は、ほかにも「ヤングオールド」「フレッシュオールド」「ミドルオールド」「シニアオールド」「オールドオールド」などがあり、横文字にしたほうが、何となく華やいだ感じがする。
 ちなみに、国の「ゴールドプラン21」は、「元気高齢者づくり対策」=「ヤングオールド(若々しい高齢者)作戦」を推進している。
  
―◇―   ―◇― 
 「わたしは、コウキコウレイシャ、なんですって、ね」
 80歳のSさんは、会話の中で、何度も「コウキコウレイシャ」と繰り返す。さきごろ、友人に誘われて参加した“高齢者の集い”で「初めて聞いた言葉だ」という。
 「コウキコウレイシャと言われたとたんに、急に年を取ったみたいで、ガッカリ」
 小柄・童顔のSさんと買い物にをした。口も達者、足も達者、エネルギッシュな動きっぷりだ。ひとしきり買い物をすませると、Sさんの足が止まった。
 「あっ、お薬の時間!」
 デパートの休憩所のイスに腰かけ、ハンドバッグから薬ケースを取り出すSさん。
 「私たち、コウキコウレイシャは、みなさんのご迷惑にならないように、体調管理につとめる、それが『お仕事』!」
 目薬を差し、錠剤を飲み終えると、腰を据え、そのまま、長話となった。
―「老い」を、どんなときに感じますか?
 「もの忘れ。たとえば、大事なものをどこにしまったか分からなくなる。家中、あちこち探しまわる。だから、このごろは、手帳に『○○は、○○にある』と書いておくんです」
―体調は?
 「すごく元気に動き回れるときもあれば、一日中寝ているときもあり、波がありますね。調子に乗って動きすぎて、救急車のお世話になったこともあります」
―大丈夫? 無理しないように!
 「でも、法事のときは、ここぞとばかり頑張っちゃいます」
 手帳には、親類の戒名・命日がずらりと並んでいる。
 「法事は、いちばん、大事な、『お仕事』ですからね」
 子供たちは独立し、いまは夫(86)とふたり暮らし。「支援」も「介護」も要らず、まだまだ「コウキコウレイシャ」と呼ばれたくない。
 「大病を何度も克服した夫の口グセは、『有終の美を飾る』。私も、頑張って、『有終の美』を飾ろう」と覚悟を決めている。
(2005年11月4日)           
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ichiyomi@jona.or.jp 市川よみうり