市川よみうり連載企画

                                

 

検証・まち  
<駅前放置自転車>
27
利用者増加への工夫<8>

  「私が以前住んでいた埼玉県の私鉄沿線の町では、駅のまわりに10以上の民営駐輪場があり、利用者獲得のためにサービスを競いあっていました。町営駐輪場もありましたが、少しでも駅に近い民営を利用する人が多かったように思います」(市川市田尻・主婦40)

   −◇−   −◇−    
ここは埼玉県南埼玉郡、東武伊勢崎線の駅がある町。駅前大型スーパーの駐輪場には、開店前にもかかわらずたくさんの自転車がとまっている。通勤・通学用の自転車を、ちゃっかりここにとめて行く人がいるのだろう。
 駅から約50メートル、古い商店街の中にある駐輪場(民営)の経営者に町の駐輪事情を聞いた。
 −町営の駐輪場は?
 「駅から150メートルくらいのところに、屋根付きの立派なのがあります。利用料は1か月1500円〜2000円。臨時預かり(1日利用)は150円。無料自転車置き場もあります」
 −民営は?
 「駅のまわりに、大小あわせて14」
 −いつごろからここで駐輪場の経営を…
 「もう10年以上にもなりますかね。以前、ここは商店だったんですよ。でも、駅が大きくなったとき、駅ビルの中に店がいっぱいできて、商店街で買い物をする客が半減。それならと、駐輪場に鞍替えしたワケです。民営は、ほとんど駅前に土地を持っている人たちがやっています」
 −営業時間・利用料・収容台数は?
 「うちは、年中無休で、電車の始発(午前5時)から終電(同零時40分)まで。月決め料金は、1階=3500円、2階=3000円で、現在約150台を預かっています」
 −「臨時預かり」は?
 「1日200円。駐輪場を始める前に、『通勤・通学用ばかりでなく、たまに自転車で出かける人のための場所も作ってほしい』という声を聞いたので、30台くらいのスペースをとってあります」
 −経営状態は?
 「お陰様で、順調です」
 −早朝から深夜まで、自転車のお守りは大変?
 「夫婦二人(共に70代)でやっていますが、そんなに大変というほどでもない。照明・入り口シャッターは、時間がくれば自動的に点滅・開閉する仕掛け。お客様一人ひとりの駐輪位置を決めているので、整列の手間もあまりない。うちは、基本的に『場所をお貸しする』という考え方です」
 −民営間競争の中、どんなサービスで他と差をつけているか?
 「まず、駅まで歩いて一分以内という『近さ』が、うちの最大のサービス。『近いからここを選んだ』というお客様の声をよく聞きます。一般的に、駐輪場でお客を呼べるのは、せいぜい駅を中心に半径100メートル圏内。それを超えると客足は遠のく」    (つづく)
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
28
利用者増加への工夫<終>

  ピンポン、ピンポーン…。昼下がりでも、人の出入りを知らせるチャイムがひんぱんに鳴る。『臨時預かり』の客だ。照明・シャッターは、営業時間にあわせて自動点滅・開閉。清潔で明るい室内にオシャレな窓…。埼玉県南埼玉郡の東武伊勢崎線の駅から約50メートルにある2階建て民営駐輪場は、70代夫婦が経営している。

 「小さな町ですが、駅の無い隣り町から自転車に乗って来る人が多いので、駅のまわりにはうちを含めて民営駐輪場が14か所あります」
 −民営間の競争は?
 「駐輪場は、駅までの近さでお客を呼ぶワケですが、遠いところは価格を下げて勝負に出る。特に学生さんは安いところになびきますからね。うちも、値引き合戦で少しお客さんを持っていかれた。だから、負けずに、学生料金を500円安くした」
 −赤字にならない?
 「自分の土地で、設備投資が終わっていて、人を雇っていないので、何とかやっていけます」
 −安くすれば、遠くても人を呼べるか?
 「駐輪場の『遠い、近い』は、駅百メートル圏内でいうことですよ。圏外だと、ちょっとねえ…」
 −14の民営がそれぞれ顧客を抱えているこの町は、放置自転車問題とは無縁?
 「いえいえ、数年前、町を流れる川の土手に放置自転車が大量に並び、問題になったことがあります」
 −いまは?
 「すっかりきれいになりましたよ。まず、町が高齢者事業団に委託して、『毎日撤去』を行った。次に放置自転車が並んでいたところに花壇を設営した」
 −花の世話は?
 「町会の仕事。一年中花が絶えないようにタネを蒔き、町の人たちが交代で世話をした。その後、自転車をとめる人はいなくなりましたよ。そこは町の『ウオーキングコース』になっています。もっとも、高齢者事業団の『見回り』は、まだ続いていますが…」
 −他に問題の場所は?
 「駅前スーパーの駐輪場。開店車前から自転車がたまっていますよ」
 −店側としても、お客様のものか、通勤・通学者の放置か、見分けがなかなかむずかしい。おいそれとは処分できない。
 「ときどき、駐輪場のスミに持ち主の分からない自転車が山積みにされている」
 −名前や住所が書いてあれば、持ち主に連絡できるが…。
 「安い自転車に無記名が多い。大切にしていない証拠です」
 −最後に、駐輪場経営者として、放置常習者にひとこと。
 「いまは『自分のものは自分のもの、人のものも自分のもの』という世の中。放置するなら、盗難・イタズラは覚悟しなければいけませんね。うちなら安心だけど…」

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検証・まち  
<駅前放置自転車>
29
ワースト5位から脱却<1>
4月16日午前11時ごろ、JR市川駅北口に隣接した商業ビル(市川ビル)の屋上から、同駅前ロータリーを眺めた。放置自転車はほとんど見当らず、歩道に大きくオレンジ色で描かれた「駐輪禁止」の文字が所在無げだった。昭和50年代初めに「放置自転車全国ワースト5位」になった同駅前がここに至るまで、4半世紀の月日が流れている。

   

−◇−   −◇−
     昭和50年ごろの房総の風景を撮った写真集の中に、「JR市川駅前に乗り置かれた自転車」と題する一枚があった。同駅前に群がる自転車を鳥観でとらえたもので「自転車無法地帯」と呼ばれていた当時の様子がよく分かる。上空から眺めると、七重八重に駅を取り卷く自転車の列は美しい模様のようでもあるが、写真に添えられたコメントは「ヤボはいいたくないが、歩行のさまたげになることは必定」。

 同53年、本紙座談会「放置自転車の打開策は」で、当時の市交通対策課長は語っている。
 「市が近隣初の2階建て自転車置場を造ったのは昭和50年夏。以後毎年、自転車に追われる状態でどんどん(駐輪場を)増やしていった。52年度までに8300万円投資したが、『さっぱり効果がない』との声も聞いている。新事業として、お年寄りによる管理体制を整え指導しているが、『ここに置いてかまわないんだ』というクセをつけることになり問題はある。今後はh自転車置場はできるだけ増設i指導・取り締まりをキビシく警察に依頼j『(駅まで)近い人は歩いて』の呼びかけを推進する」

 駅前スーパーの業務担当次長は、「店頭に置かれているものは、完全にお客様のものとみている。人が通行できる程度に整理するのが精いっぱい。自転車を減らすのは、現状では無理だろうから、置かざるを得ないのであればどのように置くか、利用者にどう指導するかが問題」

 他にも市川駅長・警察署交通係長・読者などが参加した座談会の記録には「困っている」「どうにかしたい」「むずかしい」「今のところ無理」「…うちだけに(責任を)押しつけられても」の文字が並ぶ。「自転車対策」は、まさにギリギリの「自転車操業」だった。      (つづく)

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検証・まち  
<駅前放置自転車>
30
ワースト5位から脱却<2>
  全国的に見ても、昭和50年代の放置自転車増加はすさまじい。内閣府の資料によれば、昭和50年に全国で約30万台だった駅周辺の放置自転車が、同52年で約2倍(約67万5千台)、同56年には約3倍(98万8千台)になっている。その後、10年ほどは80万台前後を推移し、平成5年あたりからやっと緩やかな下降線をたどり始める。
 一方、駐輪施設の整備状況は、完全な右肩上がりだ。昭和52年の駐輪可能台数は全国で約60万台。以後、駐輪場はどんどん増え続け、平成7年には約5倍の300万台に達する。そして、約6倍(360万台)になった同9年あたりで、建設ラッシュは鎮静化をみる。

   

−◇−   −◇−
    昭和52年、JR市川駅周辺の放置自転車は建設省(当時)調べで約3200台。地元の人の話では、「多いときは、5000台以上とまっていた」。同駅周辺の自転車置場(無料)収容台数は約1900台で、現在の約4分の1。受け皿不足の放置追放運動は、困難を極めていた。
 同53年、同駅北口のスーパーと商店会が催し物開催のため、早朝から駅前の一区画にロープを張り、自転車締め出しを図ったことがある。市も、そこに山積みにされていたスクラップ同様の自転車(73台)を撤去、清掃工場に送った。しかし、ロープ内はきれいになったものの、締め出された自転車が付近の歩道を埋め尽くす結果となった。

 同55年、官民挙げての大がかりな「路上放置自転車クリーンアップ作戦」が、15日間にわたって行われた。「チラシ」「立て看板」「呼びかけ」「移動通告書添付」など、あらゆる手を尽くした結果、期間中は一掃されたかに見えた放置自転車だが…。
 「カラスと放置自転車は追い払っても、またすぐにやって来る」「何をやってもムダ」だった。
 3階建ての市営駐輪場(市川第4駐輪場・当時1500台収容)が出来たのもこのころ。しかし、駐輪場の増設に比例して自転車も増える悪循環が続いた。
 同56年、放置自転車の数は全国的にピ−クを迎える。市は条例を制定して、市内主要駅周辺の放置自転車移送保管を開始。自転車のとめ方は「マナー」から「ルール」へと変わっていく。
 当時、全国各自治体規制条例の中で示された「放置」の認識はさまざまだった。大きく分けるとhおおむね7日以上同一場所に駐車している状態i交通に著しい支障を生じさせる状態に置かれていることjみだりに置かれている状態k自転車の利用者が自転車を離れて直ちに移動させることができない状態l社会通念に解釈をゆだねているものの5分類。同58年発行の「放置自転車条例」(北樹出版)によると、市川市はlに該当している。    (つづく)

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検証・まち  
<駅前放置自転車>
31
ワースト5位から脱却<3>
  「昭和50年代になって『放置自転車を追放せよ』という声が高まり、『銀輪公害』ということばも生まれた。駅前に集まってくる自転車の大群と地元住民との間には反目が生まれ、自治体は強制撤去を始める。そうした放置追放キャンペーンのパンフレットには『年間〇〇億円を費し、〇〇ヵ所も駐輪場をつくったが、それももう限界。駐輪場に収容できるもの以外は取り除く』とある」(佐野祐二『自転車の文化史』文一総合出版)

   

−◇−   −◇−
     放置自転車を『取り除く』手順はh警告札を付け、一定時間が経過した後に撤去、保管場所に移送して、引き取りを待つかたちがオーソドックスだが、最近では「猶予時間ナシの即撤去」や、「撤去後、保管せずに即破砕」という荒療治を始めた自治体もある。
 写真は5月13日正午の東西線南行徳駅前。この日午前中、83台の放置自転車が千鳥保管場所に運ばれていった後の様子だ。自転車利用者の間にも「警戒警報」が発令されたようで、歩道の約半分を占拠している自転車も、ふだんよりは少なかった。
 翌14日には、それでも懲りない67台が撤去された。
 自転車一台の撤去・移送にかかる費用は約4000円(移送委託1100円+保管土地・電気代など2900円)。同駅前の2日にわたる撤去・移送(150台)で費された60万円の効果は、どのくらい持続するだろうか。
 16日、早くも歩道の端に長い自転車の列が復活していた。
 即効性はあるが、持続性に欠けるのが「撤去療法」の特徴。ただし、連続で集中的に行えば、患部(放置エリア)をある程度まで小さくすることはできる。さらに患部を絞り込むために…。
 自治体は、地元の人々に「新しい療法を試してみませんか?」と持ちかける。だが、「新療法に副作用はないか?」「周囲と相談の上で」「何をやってもムダ」「いまの治療を続けたほうがいい」など、地元の意見はなかなかまとまらないのが常。
 JR市川駅北口の場合は、やや違う対応を示し、「ダメだったら、またやり直せばいい。とにかく地元がひとつになって、試してみよう」と取り組んだ。                (つづく)
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
32
ワースト5位から脱却<4>
   「…駐輪場作りに限れば、量だけでなく、対策の緻密さ、徹底性でも日本の自治体は世界一の水準にある。その結果、放置自転車増加の勢いは止まった。ただ(放置の)絶対数はたいへんなものであり、場所によっては増加傾向にある」(−自転車生かす基盤整備を−『読売新聞』5月26日付朝刊)。駐輪場作りが一段落したいま、そこに収まらない、いや収まろうとしない自転車をどうするかが問題になってくる。駐輪場契約ステッカー付きの自転車が放置の列の中に紛れ込んでいたり、街頭指導員がいないとすぐに放置天国になる現実は、「自転車は目的地に近い路上にタダでとめるもの」という習慣が依然として根強いことを物語っている。

   

−◇−   −◇−
    JR市川駅北口「アイアイロード」に設けられた「歩道駐輪場」の外柵には、こんな横断幕が。
 「自転車利用者の方へ! ご協力ありがとうございます。(買い物等、自転車を利用する)一人ひとりの理解と協力が放置自転車減少につながりました。引き続き放置の無い『安全で快適な魅力ある街』を目指しご協力をお願いします」
 また駅前商業ビル(市川ビル)のロータリー側壁面にある「いちかわ街の魅力情報発信版」や、ビルのあちらこちらにも同文のステッカー・放置関連の記事を掲示。駅前クリーンアップ作戦を続けている。
 同駅北口ロータリーから放置自転車が消えて1年半以上。やり方次第では、自転車利用者の「理解と協力」が得られるようだ。
 平成13年秋から、市は同駅前の放置規制を強化、同時に歩道の一部を柵で仕切って「歩道駐輪場」を設置。「とめてはいけない場所」を強くアピールする一方で、「短時間ならとめてもいい場所」も作った。地元の人はこの施策を「アメ(飴)とムチ(鞭)」といっている。
 実際にアメ(歩道駐輪場)を試食(利用)してみた。2時間という賞味(駐輪)時間は少し短いようにも思えるが、買い物などの小用を足すには十分。「無料」というのもうれしいし、整理員も親切。ムチ(指導や撤去)で痛い思いをするよりは、お手軽・安全なこちらの方がいいかも…。           (つづく)  
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
33
ワースト5位から脱却<終>
   『広報いちかわ』に掲載の「市長からの手紙」を愛読している。6月7日号は、『行徳地域を自転車で視察』だった。
 「街の隅々を見るためには、やはり小回りのきく自転車でなければ」と、「これまで機会を見つけては、一日かけて職員と一緒に自転車で市内各所の視察」を行っている市長。今回は行徳地域で「自然や歴史の豊かな個性や魅力」を感じる一方で、「市民の生活に密着した課題がたくさんある」ことを発見。そのひとつに「放置自転車問題」を挙げている。そして、「市民の立場、目線で考えるためにも、『現場主義』に徹し、これからもまた自転車のペダルを踏んで市内を見て回りたい。スピードが勝負」と結んでいる。
 市内を走る「銀輪視察隊」の様子が目に浮かびます。次の視察の折は、最寄りの駅前まで足をのばし、ぜひ駐輪場の「一回利用」をお試しあれ。自転車利用者の「駐輪リズム」を体感できるはず。大切な視察でのロスタイムが、次の施策につながるのでは?

   

−◇−   −◇−
     駅前放置常習者に、放置するときのリズムを教えてもらった。
「キョロ、サッ、スッ」
 キョロッとあたりを見回し、自転車のたまり場をチェック、そこにサッと自転車をすべり込ませ、スッとその場を去る。ためらいは禁物で、“スピードが勝負”とのこと。ナルホドね。早速、昼下がりの駅前で「キョロ、サッ、スッ」を試してみると…。
 JR本八幡駅前と東西線行徳、南行徳駅前では、申しわけないくらい簡単にとめられた。街頭指導員が駐輪を手伝ってくれ、加えて地元の人から「今日は『撤去』はないからだいじょうぶ。でも、○曜日の午前中は気をつけな」とのアドバイスも頂戴した。
 「キョロ、サッ、スッ」はあまりにも手間無しで、駐輪場を使う習慣とは両極にあるなあ−と実感した。だから、「放駐」には終わりがないのだろう。
 JR市川駅北口に設けられた「歩道駐輪場」に自転車をとめてみると、「放駐」に近い「サッ、スッ」という駐輪リズムが感じられる。設置場所は長年、自転車のたまり場になっていたところ。厳重に管理されている慣れ親しんだたまり場に自転車を置いていく感じだから、抵抗は少ない。
 駅前放置自転車が社会問題になって以来、「とめてはいけない場所」(放置禁止区域)は年々広がっている。駅前で「とめてもいい場所」は「駐輪場」に限られてしまった。そんななかで、「歩道駐輪場」は、歩道に張り出した「駐輪場の出店(でみせ)」のようでもある。
 JR市川駅北口の出店は現在、繁盛している。制限時間(2時間)をオーバーしたり、「もっと出店を増やせ」という客もいるが、ひとまず街と自転車の「秩序ある共生」の姿がそこに見られる。  
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
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使い分ける時代
 いまや、駐輪場も用途にあわせて「使い分ける」時代。
 ○毎日(通勤・通学などで)利用するときは『定期利用駐輪場』
 ○買い物などで短時間利用するときは『歩道駐輪場』
 ○時々利用するときは『一時利用駐輪場』
 ○原付バイクがとめられたり、レンタサイクル=自転車の無料貸し出しをやっている駐輪場もあります。
 ○民営駐輪場や民間の買い物用駐輪場もご利用ください。
(『市川駅周辺の駐輪場マップ』=色刷りA4版=市川市配布から一部引用)
 そしてどの駐輪場も駅前の一等地。「満車」のときはご容赦を!

   

−◇−   −◇−
    都内に住み、JR線と東西線を使って市川市内の仕事場に通っている石原とし子さん(50)は、「都内駅周辺の放置規制はホントにキビシイ」とぼやく。
 −駅前には放置できない?
 「ダメダメ。だから朝、駅裏スーパーの近くに自転車を置いて、仕事帰りにスーパーで買い物をするというパターンで…」
 −「裏」にまわればだいじょうぶ?
 「目立たないところだから、いいかなあと…。自分としては精いっぱい『駅前美化』に協力していたつもりだったんですけどね」
 −撤去された?
 「違うんです。私がとめていた場所が、コイン式の有料駐輪場になってしまったんです。『エーッ、ここにとめるとお金を取られるの?』ってビックリ」
 −いままでタダだった場所だけに、ショックは大きい?
 「ハイ。いままでお金を払って駐輪するという習慣がなかったこともあって、かなり抵抗がありました」
 −それで、また新しい場所探し?
 「ほかで撤去されるのはイヤだし、諦めてそこにとめることにしました」
 −使用感は?
 「ラックに入れたり出したりするときに力が要るし、そのとき服が汚れることもあるのでイマイチ…。もっとスムーズに軽く出し入れができるように改良してほしいですね」
 −お金を払って駐輪することには慣れた?
 「自動車のコインパークには何の抵抗もないのに、自転車の場合は損をしたような気分になるのはナゼでしょうね」
 −一日いくらくらい?
 「100円〜200円程度」
 −それがもったいない?
 「コインを入れるたびに、『エーッ、何で?』と『まあ、これくらいなら許せるかな』の間をさまよっている」(笑い)
 現在、市川市内にも自転車のコインパークは2か所(本八幡・南行徳)。新しい選択肢の一つになりつつある。
 
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
35
当事者は無反省
 『ヤラれちゃったよ』
 「えっ?」
 『自転車』
 「テッキョ?」
 『たぶん……』
 「どこで?」
 『駅前』

 これは、市川市に住む主婦Tさん(52)と息子(アルバイト21歳)の会話。
 「…だから、あれほど駅前に置きっぱなしにしちゃいけないって言ったでしょ。あんた、これで何回目?」
 『…………』
 「3回目よ。そのたびに、母さんが取りに行ってるんだから」
 『頼む、オレ忙しいからサ』
 「何いってんのよ、自分でやったことは、自分で責任取りなさいっ!」
 と、説教してはみたものの、息子は『時間がない』の一点張り。結局、今回もTさんの役目。ため息まじりでストックヤード(自転車保管場所)に行ってみると、あった!
 「引取料はあとでキッチリ息子から徴収しました。ホトケの顔も三度まで。今度やったら、ゼッタイ本人に取りに行かせる」とTさん。

 Oさん(パート45歳)の夫も、駅前テッキョで通勤自転車を持っていかれたが、なかなか引き取りに行こうとしない。
 「早く取りに行きなさいよ」
 『オマエ、ヒマなんだろう。かわりに行ってくれよ』
 「ダメ!」
 『どうして?』
 「だって、保管場所は(自宅から)遠いのよ」
 『じゃあ、オレが土曜日に保管場所の前まで自動車で連れてってやるからサ」
 「それで、私が、引き取った自転車のペダルこいで帰って来るっていうワケ?」
 『ウン』
 「何かヘンよね。どうして自分でやらないの? テッキョはいつも駅前に自転車をとめるあなたへのペナルティーよ」
 『引き取りなんて、大の男がハズカシイじゃないか』
 「だから私がかわりに『ゴメンナサイ』?」
 「頼むよ」
 「家族協力」ということで、引き取った自転車をこいで帰るときの気分は、「何かミジメ。家に着いたら、放置したご本人はテレビを見て笑っていましたよ。懲りているんだか、いないんだか…、よく分かりません」。

 市川市は毎週火曜日−土曜日の午前11時−午後7時(祝日・年末年始を除く)が自転車保管場所の引取時間。必要なものは・引き取る人の住所・氏名が確認できるもの・自転車などのカギ・負担金(自転車4千円、原付バイク8千円)。
 時間の関係で、放置をした本人ではなく、家族が引き取にゆくケースが少なくない。

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検証・まち  
<駅前放置自転車>
36
特効薬ではないけれど…
 週末の午後、東西線行徳駅前で地域の子供たちから「フレンドシップ号のおじさん」と呼ばれている「NPO青少年地域ネット21」事務局長・三宮美道さんと一緒に自転車ウオッチング。
 平成14年春から同地域を走っている「市民の共有自転車・フレンドシップ号」の駅前置き場に、黄色いスタッフジャンパーの三宮さんが立つと、街ゆく人が親しげに近寄ってくる。
 『おじさん、わたしの自転車、ある?』と、小学生の女の子。
 三宮さんは、自転車の荷カゴのプレートを見て、
 「いまここにあるのは、新浜小と南行小の友だちが色を塗ったものだね」
 フレンドシップ号は実にカラフル。市から無償で譲り受けた引き取り手のない放置自転車を、地域の小学生が「総合学習」の時間にペンキで色付けしている。荷物カゴは黄色に統一されているが、車体は青や赤、水玉模様だったり、ペダルは紫、緑だったり…。
 「〇〇ちゃんが塗った自転車は、いまどこかを走っているんだろうねえ」
 『ウン』
 女の子は、残念そうに置き場を去っていった。
 続いて、『あのー、この自転車、乗っていいですか?』とミニスカートの若い女性。仕事中だが、急用で自宅に帰りたいという。
 『ちょうどフレンドシップ号があってよかった! ラッキーというカンジですね』
 −派手な車体は気にならない? 『いいえ』
 インターナショナルな土地柄だけに、黒人青年が『コレ、ツカエマスカ?』
 置き場は空になった。そこに中年夫婦の乗った自転車がご帰還。すると、すかさず買い物帰りの主婦が『南行徳駅まで乗って行きたい』とハンドルに手をかける。
 『着いたら、どこに置いておけばいいの?』
 「駅前に置き場がありますよ」
 フレンドシップ号の置き場は、駅前・公共施設・公園など、全部で40か所。
 −街を「回遊」する自転車ですね。
 「ハハハ、長旅に出ることもありますよ。千葉市内まで行っちゃった自転車もある」  
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
37
レンタサイクルに注目<1>
現在、市川市は、駅周辺の一等地で駐輪場用地確保が困難な状況にある。加えて、撤去後の引き取りのない自転車が増加していることからh既存駐輪場の有効活用i処分自転車の再利用を図る目的で「レンタサイクル」事業を行っている。無料の1日レンタサイクルが利用できるのは、「市川地下」(10台)・「八幡第2地下」(15台)・「大野第1」(25台)・「国府台第2」(10台)の各駐輪場。
 「八幡第2地下駐輪場」で自転車を借りてみた。簡単な手続き(用紙に住所・名前などを記入)を済ませ、管理人に「事故を起こさないようにネ」と念を押されて走り出したが…。黄緑色の荷物カゴには赤青のレンタルマーク。すれ違う人の視線が気になる。JR線以北の道で、レンタル自転車はまだ珍しいようだ。
   
−◇−   −◇−
    地域の子供たちの手でカラフルに塗られ、100メートル先からでも「それ」と見分けのつく「市民の共有自転車・フレンドシップ号」。元々は引き取り手のない放置自転車だ。行徳駅前広場のベンチに座って、破砕をまぬがれた自転車が、人から人へと乗り継がれてゆく様子を見るのは感慨深い。特に、朝の通勤時間帯(午前7時−8時台)の同駅前にある置き場は絶えずにぎやかで、自転車の派手さなど気にならない。
 街を回遊する共有自転車は、時間が経てば、自然に置き場に戻ってくるのだろうか? フレンドシップ号を運営しているNPO法人・青少年地域ネット21の報告によれば、
 「午前5時過ぎから40か所の置き場を巡回して、(フレンドシップ号の)路上放置と置き場状況を確認。午前7時前に、通勤に便利な置き場に自転車を配置。その後、行徳駅に戻り、7時−8時まで1時間の動態調査。午後は、朝の巡回で路上放置されていたものを撤去、軽トラックで移送して駅に配置、利用者の利便を図るように努める」など、毎日のセッティングが不可欠。
 「マンションやスーパーの駐輪場、空き地にとめられていたり、長旅・長逗留する自転車も珍しくない。誰もが使えるようにカギをはずしているのだが、チェーンを巻きつけ『私物化』する人もいて」総台数(約600台)の約3割が行方不明。ここでも、利用者のやんちゃぶりが見え隠れする。
 しかし、そんな「やんちゃ」を引き算しても、同地域で「自転車の乗り合いが自然体」になっていることは事実だ。フレンドシップ号が放置自転車減少の一策につながっていくだろうか?
 「いまは実験の第一段階」とネット21事務局長・三宮美道さん。「(放置問題は)地域の人たちと一緒に、いろいろ仕掛けをして、楽しくやっていかないと長続きしませんよ」。          (つづく)
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検証・まち  
<駅前放置自転車>
38
レンタサイクルに注目<2>
行徳駅前から『フレンドシップ号』に乗ってみた。荷物カゴの内側に張ってある「使用上の注意」は、
 h市民の共有自転車です。個人所有はできません。カギの取り付けは禁止。取り付けた場合は撤去・切断します。
 はい、分かりました。いま流行りの「レンタサイクルシェアリング」(一台の自転車を複数の人が共有して使う)ですね。
 i行徳地域で利用できます。
 j必ず所定の場所に乗り捨ててください。
 「所定の場所」とは駅前・公共施設・公園など、次のとおり。
 東西線行徳・南行徳・妙典各駅の「フレンドシップ号」置き場。行徳支所、南行徳市民センター、行徳・南行徳・幸・本行徳各公民館、南行徳図書館、塩浜体育館、浦安市川市民病院、行徳野鳥観察舎。東海面・南行徳・行徳駅前・南沖児童・行徳中央・塩焼中央・妙典・広尾・北浜・桜場・中江川添・福栄・新浜・東根・東浜・南浜・下道・神輿・浜道・東沖・塩の花・南場・相之川・香取・蟹田・八幡前・西浜各公園のコミュニティーサイクル置き場の合計40か所。

 市広報課発行の地図『いちかわガイド』を頼りに、置き場をたどってみると、行徳地域のコミュニティースポットをきめ細やかにつないでいることが分かる。
 k事故等が発生した場合は、使用者の責任となります。走行には十分注意し、交通ルールを守りましょう。故意による破壊・破損等は処罰の対象となります。
 l所定の場所以外で乗り捨てを見かけた時は、置き場への移動のご協力をお願いします。また、所定の場所以外の乗り捨てやパンク・ブレーキ・照明などの不具合はご連絡ください(NPO青少年地域ネット21TEL047・390・3987)。
 スーパーの駐輪場でフレンドシップ号発見! カラフルな車体は一目で「それ」と分かる。しかし「乗り捨て」られたものか、利用者が買い物中なのかは、判別できない。
 南行徳公民館前で、「フレンドシップ号に乗って、これから自宅(福栄四丁目)まで帰る」という学生に出会う。
 −よく利用しているの?
 「これに乗るのは、きょうが初めてなんです」
 −(「フレンドシップ号」を)ゲットするのは、むずかしい?
 「ハイ。家族や友人から、『〇〇で見かけた』『〇〇に置いてあった』という話はよく聞きますが、実際に利用したいと思うときには見当らないのが現実で…」
 −自宅近くの「置き場」は?
 「え−っと…、どこかな…」
 荷物カゴに張られた「置き場一覧」を読み始める学生。
 「ウワサの自転車」は、やはり「所定の場所」に「乗り捨て」が原則。        (つづく)

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検証・まち  
<駅前放置自転車>
39
レンタサイクルに注目<終>
市川市行徳地域で「市民の共有自転車・フレンドシップ号」(企画・運営=NPO青少年地域ネット21)が走り始めて、約1年4か月。その間の「延べ利用者数」は約12万人。駅に滞留することのない共有化自転車で放置自転車対策を検証しながら、地域コミュニティーの活性化をはかっている。
 今後の展開として、▽利用者の地域別利用状況調査▽バス利用地域と路線外地域の利用状況調査▽自転車専用歩道の設置と通勤時間帯自転車専用道の設置など、いくつかの「社会実験」を国土交通省とともに企画している。
 さらに、新しい「レンタサイクル」システムを導入して、自転車利用者の絶対数を減らそうという計画も進行中。全国に類を見ない放置自転車対策の「市川モデル」に育てあげようとしている。
 参考として、福岡県久留米市で平成11年から「共有自転車」を走らせている学生ボランティアたちの奮戦記『自転車は街を救う』(「水色の自転車の会」編・新評論発行)の例を紹介する。
 スタート当初は「無料で、好きなだけ利用できる自転車。いつ戻すのか、いつ使うのかと管理されることもなく、使う側の善意に委ねられたシステム。当然、私物化などの問題もあると思うが、管理は自由にしたい。自由に使える自転車の台数が多ければ、私物化されることもないだろう」と理想的な状況を想定したが、「『管理』の問題は、2年目の活動に常につきまとった。善意の自転車を差し出された市民側が(もちろん一部ではあるが)、ルールを守らないという道徳感のなさを露呈したからだ」。
 管理されないとルールを守ることができない一部の「市民」を目のあたりにして、学生メンバーは「共有自転車はレンタサイクルではありません」と強調する。
 「共有自転車」と「レンタサイクル」の違いを強いて言うなら、それは「管理する」か「管理される」か。「共有自転車」は次に使う人のことを考えて、使う人自らが「管理する」もの。決められた場所に乗り捨てるのも「管理」のひとつだ。他の人に使わせないようにチェーン・キーを巻きつけるのは、「管理」ではない。果たして、市川市民は「共有自転車」を「管理する」ことができるか? 実験はまだまだ続く。
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<駅前放置自転車>
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駐輪場改善で解決?<1>
市川市議会の議事録を閲覧すると、昭和56年あたりから放置自転車問題が議論されており、現在までに延べ100人を超す議員たちが質問にあたっている。特に市内の駅前が「全国ワースト10」入りした年などは、抜本的な対策が求められ、その記録は10数ページにも及ぶこともある。「この程度の条例改正ではナマぬるい。ビシビシ取り締まれ」とタカ派、「もっと綿密にアンケート調査をした上で」と慎重派、「何か奇策はないものか」とアイディア派。総じて「いつごろまでに、どのようにして、この問題を解決するのか?」という問いかけが繰り返されている。

 さきの6月定例会でも、恒例の「この問題」に対して、道路交通部長がこれまた恒例となった「市の放置対策の歩み」を語る。概要は次のとおり。
 今日に至るまで、市内主要駅周辺の放置対策は、基本的に通勤・通学者を対象に駐輪場の整備、放置自転車の撤去、放置禁止区域・放置禁止のPRを中心に行ってきた。
 駐輪場については、昭和49年に国鉄(当時)総武線の高架下を借りて市川・本八幡駅に6200台分を確保したのを皮切りに、同50年には東西線行徳駅に2か所=6千台分。その後も市川大野・南行徳・妙典駅と順次設置。また市川・本八幡両駅に地下駐輪場を設けるなど、
 「可能な限り(自転車の)収容能力の拡大を図ってきた」結果、現在までに総武線沿線に21か所=約2万台分、東西線沿線には9か所=約1万1700台分の駐輪場を確保。新しい試みとして、平成13年から250台の収容規模を持つ「買い物客用一時利用駐輪場」を市川駅周辺に設置、一日延べ2000台の利用をみている。 このように駐輪場を作り続けてきた効果は、平成5年と同15年の「市内主要6駅周辺の自転車集合台数と放置台数」(一日平均)を比較することで明らか。

 〔平成5年〕
 集合台数=2万3700台
 放置台数=8900台
 放置率=37%
 〔平成15年〕
 集合台数=3万5000台
 放置台数=8800台
 放置率=25%
 つまり、10年間で集合台数が1万1300台増加しているのにもかかわらず、放置台数はほぼ横ばいで、放置率は12ポイント低下している。とりわけ、市川・本八幡駅の放置率低下は、市川=33%→5%・本八幡=23%→14%と顕著。ということで「両駅周辺に関しては、放置問題は大幅に改善されつつある。これは、市が放置対策初期の段階から駐輪場整備を積極的に進め、指導を行ってきた結果」とみている。
 市にとって放置自転車対策の根幹は、「まず駐輪場整備にあり」ということだ。            (つづく)  

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駐輪場改善で解決?<終>
「これは一つの見方に過ぎないが、放置の問題だけでなく、自転車に関する諸問題の解決がいまいち進まないのは『関係者』が多いという側面があるからではないだろうか」(『サイクルパワー』横島庄治著・ぎょうせい刊)。
 だから「自転車利用者・地域住民・道路管理者等の施設管理者・警察・鉄道事業者等、関係者や関係機関が一堂に集まり、みんなで知恵を絞り出し検討する場、すなわち、個々の駅ごとに『放置自転車対策協議会』を設置し、地域における関係者や関係機関等の協力体制の確立を図ることが大切であると考えている。実際に設置した後の具体的な効果としては<1>地域住民をはじめ関係者等と行政の距離が近くなった<2>町の情報、特に用地情報がたくさん行政に寄せられるようになった<3>『放置自転車問題は行政だけの問題ではない。みんなで解決しなければならない』という共通認識が深まった」(『“政在治輪”の時代』金子正著・北土社刊)。

   

−◇−   −◇−
     東西線南行徳駅周辺が「全国ワースト9」にランクされてから一年あまり。その間、市の「定期的な移送撤去」が行われ、
 「移送トラックがごっそり放置自転車を持っていったあとに、すぐまた自転車をとめていく人がいたりして、アーア、何度(撤去を)やってもムダじゃないかなと思ったころもあったが、継続は力、このごろ目に見えて駅前ロータリーがキレイになった。先日は、いままで手つかずだった駅南側歩道の撤去も行われて、歩くのがラクになった。ここらで『一件落着』ですか?」(福栄在住・主婦45)
 さきごろの市川市議会6月定例会で、「限られた予算の中で、いままでは(整備)地域をある程度限定していたが、今後は行徳地域も駐輪場の整備を含め、積極的に対応していきたい」と道路交通部長。特に南行徳駅周辺は、現在一日の自転車集合台数5200台に対して、駐輪場収容台数はその半数以下の約2000台しか確保されていないこともあり、「同駅を本年度の重点対策区域と位置付け、当面は収容台数を少しでも集合台数に近づける方向で具体的な対策を進める」。
 まず、同駅前ロータリー周辺の比較的広いスペースを持つ道路上に駐輪場を設置する予定で、現在そのための作業が進行中。5月19日には、地元自治会・商店会・市民・警察署・営団など関係者で構成される「南行徳周辺自転車対策懇話会」を発足、この計画に関する意見・要望等を聞きながら、11月の開設を目指す。数多い「関係者」の団結力が問われる。
 さらに、通勤通学者の動線と駐輪場利用実態調査も開始して「有効性を配慮した駐輪場を確保するための用地取得を考慮している」が、こちらのほうは「結論が出るまでに、いましばらくの時間が必要」。
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南行徳・ワースト返上
8月2日付『いちかわ市議会だより』に、「歩道の両側にずらりと並んだ放置自転車」というキャプション付きで、東西線南行徳駅付近の写真が掲載されていた。平成13年7月15日付の広報(日曜版)でも、「ここを見るとモラルをただすのは難しいと感じる」「歩くのは不可能」と市民リポーターがキビシク指摘していた『放置の名所』だ。実際に行ってみると…。
 8月12日正午、同地の様子は左の写真のとおり。『市議会だより』の写真と比較すると、かなり風通しが良くなっているように見えるが、「でも、あいかわらずたくさん放置自転車が並んでいるじゃない」という感想を持たれる読者も多いと思う。ところが、地元に15年住む主婦(45)は、
 「ここの歩道の片側(商店側)の自転車が、市の撤去でイッキに無くなったときは『アーッ!』とオドロキの声をあげてしまいました」
 −意外にあっけなく自転車の列が消えた?
 「なぁんだ、やればできるじゃないの。どうしてもっと早く撤去を徹底しなかったんだろうという不満はありますが、まずは歩行スペースが広がったことを感謝しなくてはいけませんね」
 −クリーンアップした商店側には車止め、道路側の自転車群には撤去予告の紙と、ものものしい態勢だが…、
 「ほら、こうやって話をしている間にも、平気で自転車をとめていく人がいるから、まだまだ油断できない」
 −街頭指導員の数も以前より多くなったようだが、それも放置の抑止力になるか?
 「制服の指導員があちこちを巡回していると、本格的に放置規制が始まったようなカンジがする」
 −今秋に開設が予定されている駅ロータリー側歩道駐輪場も期待できる?
 「駅周辺に散らばっている自転車をそこに集めるというワケですか? いちばん便利なところに公認でとめられるのだから、きっと大盛況になると思う。ただし、歩行スペースはたっぷり残しておいてほしい」
 −JR市川駅周辺は、歩道駐輪場によって、放置が一掃された。
 「楽しみです。南行徳もワーストの汚名を返上といきたい」
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<駅前放置自転車>
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自転車専用道の先は満車の駐輪場
東西線沿線の行徳の街は、区画整理事業が行き届き、地図を見ても碁盤の目のように整っている。道路もまっすぐなところが多く、自転車利用者にとっては走りやすい環境だ。
 南行徳2丁目に住む主婦(38)が「自転車専用の道もあるんですよ」と教えてくれた。「東西線高架に沿った道の一部に、グリーンで色分けされたところがあって、そこに大きな字で『自転車』と書いてあるから、『自転車専用道』に間違いありません」。
 市道路管理課に問い合わせてみた。
 「はい、『自転車歩行者道』ですね。平成の初めごろから整備が進められ、現在に至っています」 道路図を見せてもらった。高架の南北両側に沿ってのびる道は、平均約11メートルの幅で、車は一方通行。このため歩道スペースが広くとれる。だから、歩道部分を歩行者と自転車に区分できたというワケだ。図面には、『人にやさしい道づくり』とある。市域内でこのような道はほかにも?
 「街中では、いまのところそこだけ。これから新設する道路でも同様の道づくり事業を実施中で、『サイクリングロード』として、江戸川土手(国府台−湾岸道路)の5・7キロがあります」
 地元の反響は?
 「特にありません。(道路が)あればあったで、便利に使っていただいているとは思いますが…」
 行徳駅から南行徳駅まで、高架に沿って歩いてみた。確かに、歩道部分に自転車マークが描かれたグリーンロードがあった。2台の自転車がらくらく並んで走行できる幅だ。
 歩行者を気にせずストレート走行できるのは気持ちがいい?
 「ハハハ、特に意識したことはないですよ」と地元利用者にはアタリマエの顔をされてしまった。
 市営「南行徳第1駐輪場」が見えてきた。入り口には「満車」の看板。駅から200メートル圏外と、立地条件はいまひとつだが、今年4月からの無料化で利用率がアップしたようだ。一般的に利用率が低いといわれる2階部分にも、自転車がいっぱい並んでいる。隣の「第2」(有料)も満車。
 駅に近づくにつれて、歩道は狭くなる。気持ち良く走ってきた自転車も、ここで速度を落とし、停まる場所を探している。  
   
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本来の姿を取り戻した
さて、右の写真はどこでしょう?

 正解は、東西線・南行徳駅前ロータリー。9月5日、広場につながる駅階段下で撮影した。自転車が消えると、遠くの景色までハッキリ見える。これが駅前の素顔だったのだ。放置自転車は、写真右側の十数台を残すのみ。
 普通の自転車は、成人用で全長約1メートル70センチ、高さ1メートル前後、ハンドル部分の幅約60センチ程度のスリムな乗り物だが、数10台・数100台単位の集合体になると街の景色を変えてしまうほどの力を持つ。道に対して直角に置くと、ちょうど大人が腰をかがめ、両手をひろげて「とおせんぼう」しているようなかんじになる。幅員4メートルの歩道の両脇に自転車が並ぶと、残された歩行スペースは肩幅くらい。
 視覚的にいうなら、目の中にまず自転車の群れが飛び込んでくると、視線はそこでストップしてしまい、周囲の景色が見えなくなってしまう。自転車がたまった風景を見続けていると、それがアタリマエになってしまい、何も感じなくなる。一度、元の風景(自転車の無い)に戻してみると、いままでずいぶん視界が閉ざされていたことに気付くだろう。
 駅南側も、歩道の両側に並んでいた自転車が撤去で一掃され、店舗の入り口がハッキリ見えるようになった。店員が広くなった歩道に水をまき、掃除をしている。店先の駐輪を黙認するのがお客様サービスか、それとも店頭のクリーンアップをはかるのがサービスか…。経営者にとっては頭の痛いところだ。
 昭和56年に開設された同駅は、それから20年余が経過し、ただいま改良工事の真っ最中。高架下商店の中にも、店舗改装中のところがあり、ガードマンが人や工事車両の交通整理をしている。
 一般的に、アプローチ(玄関に続く道)・エントランス(玄関)の清掃が行き届き、優秀なコンシエルジュ(管理人)が常駐している集合住宅は、資産価値が高いといわれている。南行徳の街も、玄関先の自転車を一掃し、街頭指導員を適所に配置して、心機一転、生まれ変わろうとしている。
 自然、放置を取り締まる街頭指導員も気合が入ってきた。持ち場を守りつつ、仲間との情報交換もおこたらない。もう、ベンチに座わり、ヒマそうにタバコをふかしている指導員はいない。  
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「危ない」にふたつの意味
夕暮れのJR本八幡駅北口を、ラジオの『道路交通情報』風にリポートすると、 「夕方の『歩道交通情報』をお知らせいたします。JR本八幡駅北口ロータリーの歩道は、現在、パティオ前の流れは順調、歩行に支障はございません。しかし、ハタビル付近では、バスを待つ人の長い行列と放置自転車の影響で、『歩行渋滞』が起きています。家路にお急ぎの人やこれから駅に向かわれる人は、歩行事故にくれぐれもお気をつけください」

 「歩行渋滞」の場所を、人々は大抵アキラメ顔で通過してゆく。が、中にはこんなアクションや言葉を残していくひとも。
 〈その1〉
 「何でこんなところに自転車をとめておくんだよォ!」
 中年男性が、進路を阻むようにとめられた自転車をけり倒していった。
 『あら、まぁまぁ…』
 通りがかりの高齢女性が、倒れた自転車を一生懸命起こそうとしているが、作業ははかどらない。それを見ていた中年女性が、
 「奥さん、アナタがそんなことしなくていいですよ。誰か若い人に手伝ってもらいましょうよ」
 しかし、“助っ人”はいっこうに現れない。
 『このままでは危ないの。私たち年寄りは、自転車に足を取られて転ぶことがよくあるのよ』
 「じゃあ、一緒にやりますか」 自転車は何とか元の位置に戻った。
 『いつもここを通るたびに思うんだけど、どうして肝心の混雑時に、ここの整理をしてくれる人がいないのかしら?』
 〈その2〉
 20代男性が、放置自転車のスキ間にバイクを押し込もうとしている。それを見つけた買い物帰りの主婦が声高に、
 『危ない! そこにバイクをとめちゃダメよ!』
 「ハァ!?」
 『わたしもね、そこにバイクをとめて、ちょっと用を足している間に、撤去で持っていかれちゃったことがあるのよ』
 「へぇー、そうなんですかー」
 『一度だけじゃないのよ、もう二度三度! だから、ここは危ないの。アナタも気をつけてね』
 「危ない」。そこには、いろいろな意味があるようだ。  
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<駅前放置自転車>
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放置と撤去の陣取り
9月13日付『広報いちかわ』に、市民から寄せられたこんな短歌が載っていた。
 トラックヘ放置自転車積み込みて運び去れるにすぐ置きてゆく
 【選評】には、「好ましくない現代の風潮を把っておられる。言わずとも作者の思いを推しはかり得る」とあった。放置自転車の撤去風景は、歌人の心も動かしたようだ。記者も、トラックで運ばれていった自転車を想い、一首。
 主(ぬし)を待つ自転車たちのため息がストックヤード(保管場所)に響く秋の夜

   

−◇−   −◇−
     一年間、市内各所で放置自転車移送撤去の光景を見てきた。駅前という「ゲーム盤」の上で、撤去する側(行政)とされる側(放置常習者)の「陣取り合戦」が繰り返されていた。

 最初は放置する側が優勢。まさに『運び去れるにすぐ置きてゆく』状態。街頭指導員が、撤去しきれない自転車を「駐輪禁止」の看板や車止めで囲い込み、整列させていた。
 撤去は続く。そして、じわりじわりと放置自転車を囲い込んでいく。どちらが先にアキラメるか、長期戦の構えだ。
 歩行スペースが放置スペースよりも広くなると、「ちょっとここにとめてもいいですか? すぐに戻って来ますから」と指導員に遠慮がちに聞く人が出てくる。もちろん、「とめていいか悪いか」は看板を見れば分かることだが、人は看板ではなくその場の雰囲気で動いている。
 放置側がためらいを見せはじめると、撤去側は指導員増強・指導時間延長でグイグイ押してくる。
まったく自転車のない歩行空間があちこちに出来上がる。指導員の数の多さ、き然とした態度が放置の抑止力になることが分かった。 そうやって駅前から追い出された自転車はどこへ行くのか? ひとりの学生を追ってみた。
 学生は、指導員が指差した駐輪場の方向へ自転車を押していく。そのまま駐輪場まで行くかと思いきや、脇道にそれ、路肩に自転車を止めカギをかける。そして、ふたたび何食わぬ顔で駅に向かう。学生がとめた場所は、自転車のたまり場になっていた。
 「もう放置はやめた」というワケではなく、それぞれお気に入りの新たな場所に陣取り、そこから駅前に復帰できるチャンスを狙っている。「転進」ということばが浮かんできた。
   (おわり)   
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